再エネが石炭を初めて逆転、世界最大の電力源に─日米は原発・化石回帰も市場は気候テックへ

再生可能エネルギーの導入スピードが途上国を中心に急速に加速しているようです。英語圏では「歴史的転換点」という言葉で広く紹介されています。
市川裕康 2025.10.11
誰でも

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*免責事項:要約、翻訳、編集の際にChatGPT、Claude Sonet 4.5 などの生成AIツールを使用しています🙂

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*「Climate Curation」では英語圏の記事を中心にピックアップしています。日本における気候変動・脱炭素関連のニュースは毎週水曜日に配信しているJapan Climate Curationで英語で報じられているニュースを中心にまとめています。以下の【Japan Climate Curation #173】をご覧ください。

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【⭐📰👀今週気になったニュース・トピックス】

*以下のEmber やIEAによる再生可能エネルギー導入の激増についてのニュースが英語圏ではとても話題になっていた一方で、国内の大手メディアではほとんど報じられていないようです(BBC/ロイター/Bloombergの翻訳記事としては報じられてます)。総裁選などに報道が注目したからかもしれませんが、メガソーラー、洋上風力事業の撤退、メガソーラーなど、再エネに対してのネガティブな報道やSNS上のナラティブのほうが目立つ印象です。日本特有の状況もあるものの、グローバルトレンドの把握も重要と改めて感じます。

  • シンクタンク「エンバー」の報告によると、2025年上半期に再生可能エネルギーが初めて石炭を上回り、世界最大の電力源となりました。太陽光・風力発電の急成長が電力需要増を100%満たし、化石燃料使用も減少しました。中国などの途上国がクリーンエネルギー拡大をけん引する一方、アメリカやEUでは化石燃料依存が高まりました。太陽光発電コストは1975年以降99.9%下落し、特に低所得国で急速に普及しています。中国のクリーンテクノロジー輸出は8月に過去最高の200億ドルに達しました。この歴史的転換点は、エネルギー移行が単なる理想ではなく、経済的にも実現可能な現実となったことを示しています。

【2】📉 IEA、米再エネ予測を半減 トランプ政策で [10/7 Bloomberg Green]

  • 国際エネルギー機関(IEA)は、米国の2030年までの再生可能エネルギー成長予測を昨年比で半減させました。トランプ政権下での連邦税額控除の早期廃止、輸入制限、洋上風力リースの停止、連邦用地での太陽光・風力プロジェクト許可制限などが主な理由です。一方、世界全体では2030年までに4,600ギガワット(中国、EU、日本の発電容量の合計に相当)の増加が見込まれ、太陽光発電がその約80%を占めます。米国と中国の政策変更により、世界予測も昨年比5%下方修正されましたが、トランプ政権の政策転換にもかかわらず、世界の再生可能エネルギーは急速な拡大を続ける見通しです。米国の政策後退は大きな影響を与えますが、グローバルなエネルギー転換の勢いは維持されています。

  • 2024年9月の世界平均気温は観測史上3番目の高さを記録し、産業革命前と比べて1.47℃上昇しました。パリ協定で設定された1.5℃の閾値に迫る水準です。日本、中国、韓国では10月初旬から記録的な高温が続き、日本では34℃、中国では39℃に達する地点もありました。カナダでも10月の最低気温記録が4℃の差で更新されています。現在はエルニーニョとラニーニャの中間期ですが、2023年の強いエルニーニョの影響が残っており、北太平洋と北東大西洋の海面温度は平均を上回っています。気候変動の進行が懸念される状況が続いており、1.5℃目標の達成がますます困難になっていることを示しています。

  • 自民党総裁に選出された高市早苗氏は、原子力発電を重視し再生可能エネルギーの比重を下げるエネルギー政策を推進する方針です。エネルギー自給率100%を目指し、次世代革新炉と核融合炉の早期実装を訴えています。外国製太陽光パネルには反対する一方、日本が強みを持つペロブスカイト太陽電池は推進します。識者は原子力や新技術には追い風だが、外国製機器に依存する再エネには打撃と指摘。株式市場では原発関連株が上昇し、再エネ関連株が下落しました。ただし、原発再稼働には厳しい規制基準と地元自治体の同意が必要で、実現には課題が残ります。この政策転換は、日本のエネルギー戦略における大きな方向転換を意味し、国際的な再エネ拡大の潮流とは異なる独自路線を示唆しています。

【5】📈 グリーン株急伸、金も上回る [10/8 Bloomberg Green]

  • グリーンエネルギー株が主要株式指数や金をアウトパフォームしています。S&Pグローバル・クリーンエネルギー・トランジション指数は、4月のトランプ大統領の関税発表以降約50%上昇し、S&P500や金の約35%上昇を大きく上回りました。AI需要の高まりにより、再生可能エネルギーなしではAI稼働に必要な電力を供給できないことが明確になり、投資家のグリーン株への関心が高まっています。低金利環境も資本集約的なグリーンセクターを後押ししています。Brookfieldは200億ドルの世界最大のクリーンエネルギー移行ファンドを調達しました。ただし、指数は2021年のピーク時の半分の水準にとどまっています。AI革命が思わぬ形で気候テック投資を加速させており、テクノロジーとエネルギー転換の新たな相乗効果が生まれています。

image credit: Bloomberg

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  • 2025年ノーベル化学賞を受賞した京都大学の北川進特別教授が開発した金属有機構造体(MOF)の事業化に日本企業が取り組んでいます。MOFはナノメートル級の微細な穴を持ち、物質を効率的に吸着・分離できる革新的な材料です。レゾナックHDは2003年から北川教授と共同研究を進め、2035年度の商用化を目指してCO2分離回収技術を開発中です。大阪ガスも大気中からCO2を直接回収するDAC技術への応用を進めています。MOFは金属コーティングなど多様な用途にも展開されていますが、中国をはじめとする海外勢も注力しており、日本企業が実用化でリードを保てるかが今後の課題となっています。基礎研究から実用化への橋渡しが日本の気候技術競争力の鍵となります。

【7】MIT テクノロジー・レビュー「気候テック企業10 2025」[10/6 MITテクノロジーレビュー]

MIT Technology Review
@techreview
Introducing: The 10 Climate Tech Companies to Watch for 2025, our annual list of companies that are taking meaningful steps to reduce emissions and mitigate the impacts of climate change.

Explore the full list: trib.al/xsgqd2P
2025 Climate Tech Companies to Watch MIT Technology Review's annual list of companies that are ta trib.al
2025/10/06 23:15
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  • MITテクノロジーレビューが3回目となる有望な気候テック企業リストを発表しました。このリストは、エネルギー、食品、物流など主要セクターの脱炭素化に取り組む企業に注目を集めることを目的としています。米国では政治・資金状況が劇的に変化しましたが、気候変動対応の緊急性は変わらず、温室効果ガス排出の急速な削減が求められています。選出企業には、ナトリウムイオン電池のHiNa(中国)、遺伝子編集作物のPairwise(米国)、低排出セメントのCemvision(スウェーデン)、地熱エネルギーのFervo Energy(米国)、バッテリーリサイクルのRedwood Materials(米国)などが含まれ、世界各国の多様な技術分野から選ばれています。政治環境が不安定な中でも、イノベーションの現場では着実に気候ソリューションが生まれ続けています。

  • 航空業界のグリーン化が頓挫しています。英国ガトウィック空港の第2滑走路が承認され、EU全体で2050年までに乗客数が倍増する見込みです。持続可能な航空燃料(SAF)は通常燃料の2-8倍のコストで生産が追いつかず、水素飛行機の商業化は数十年先です。IPCCによると、高高度で形成される飛行機雲が航空業界の温暖化効果の半分以上を占めています。さらに深刻なのは不平等で、世界人口の1%が航空CO2排出の半分以上を占めています。ライアンエアのオレアリーCEOは「グリーンアジェンダは死んだ」と発言。トランプ政権の復帰で排出削減の国際協力も困難に。航空業界は2040年までに英国最大の排出セクターになる見込みで、頻繁飛行者やプライベートジェット利用者への課税など新たな対策が模索されています。

image credit: 自然エネルギー財団

image credit: 自然エネルギー財団

  • 国連特別報告書「転換の好機をつかむ」の日本語版発表を記念したシンポジウムが開催されました。グテーレス国連事務総長は、自然エネルギーコスト激減により世界が化石燃料依存からの「唯一無二の転換点」に立つと指摘しています。日本の再エネ比率は25%で、2024年の太陽光導入は2.5GWと目標に遠く及びません。化石燃料への補助金継続とカーボンプライシング不在が再エネ競争力を阻害し、投資予見性の欠如が障壁となっています。東京都は新築建物への太陽光義務化やペロブスカイト電池導入で先進的役割を果たしています。専門家は系統柔軟性向上、ネガティブプライス導入、国民の正しい理解促進を提言しました。世界的な転換の好機を日本が活かせるかは、政策の迅速な転換にかかっています。

  • PAPAMO株式会社の調査により、今年の夏休みの子どもの外遊び時間が「30分未満」が約4割、「1時間未満」が約7割にのぼることが明らかになりました。保護者の約8割が「熱中症の心配で外遊びを制限している」と回答し、気候変動が子どもの発達機会に影響を及ぼしています。学校や園などの教育現場でも4割が「外遊び・運動活動の中止や短縮」を実施しており、社会全体で体を使う時間が減少しています。保護者の最大の懸念は「体力・持久力の低下」(46.8%)で、発達や学習への影響を心配する声も少なくありません。気温上昇は子どもの身体と心の発達に影響を及ぼす深刻な社会課題となっています。気候変動の影響は、統計や予測だけでなく、すでに私たちの日常生活と次世代の成長に深刻な影響を与えている現実を突きつけています。

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【イベントのご案内】私も参加予定です。参加される方は現地でお目にかかれることを楽しみにしています🤞。

image credit: Japan Climate Initiative

image credit: Japan Climate Initiative

  • 気候変動アクション日本サミット (Japan Climate Action Summit: JCAS)2025

  • ■日時:2025年11月7日(金)14:00~18:00(終了後、交流レセプション開催)

  • ■開催形式:ハイブリッド

  • 会場:イイノホール(受付開始13:30)

  • 〒100-0011 東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング4階(アクセス)

  • オンライン:Zoomウェビナー

  • ■日英同時通訳あり

  • ■参加費無料・要事前Web登録

  • ■主催:気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative; JCI)

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  • ここまでお読みいただきありがとうございました! 今回は以上となります。もしニュースレターが有益と感じられたら、LinkedInで「いいね」や「シェア」をお願いします。みなさんのネットワークの中で、気候変動に関する情報を必要としている方に届くきっかけになれば幸いです。

  • 気候変動、脱炭素、気候テック関連のリサーチ等にも力を入れています。海外の業界動向調査やコンサルティング等、お仕事のご相談・ご依頼がありましたら、どうぞお気軽にご連絡下さい。

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では、よい連休をお過ごしください🙂🙋

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