Vol.201:イラン戦争1カ月、エネルギー秩序の「新常態」へ――IEAが需要抑制を緊急要請、中国五カ年計画がエネルギー安全保障を最優先に脱炭素を国家戦略へ、地熱・EV・廃電池が台頭

こんにちは。新しく登録してくださった皆様、ありがとうございます。気候変動・脱炭素・気候テック専門のニュースレター「Climate Curation」編集人の市川裕康です。
3月17日から19日まで、東京ビッグサイトで開催されたスマートエネルギーWeek【春】2026に参加してきました。1,600社出展・来場者7〜8万人という規模は何度来ても圧倒されます。太陽光・風力・バッテリー・水素・ゼロエミ火力・CCS・バイオマスなど守備範囲の広さも相変わらずで、エネルギー転換の「今」を一気に体感できる場所です。
特に印象的だったのは、ソーラーパネル展示エリアを席巻する中国企業の存在感、系統用蓄電池への注目の高まり、そして中国企業数社によるペロブスカイト太陽電池の展示などでした。毎日約15,000歩を歩きながら各ブースの担当者と直接言葉を交わす時間は、記事や数字だけでは見えてこないリアルな手触りを与えてくれます。現場から得た感覚を今後のニュースレターの編集にも活かしていきたいと思います。ニュースレターを購読してくださっている方にも会えてとても嬉しかったです:)
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免責事項:要約・翻訳にClaude・Genspark・Manus・Perplexity・NotebookLM等を使用しています。
【⭐📰 今週のニュース・トピックス】 *先週号を見逃した方はこちらからどうぞ
🛢 IEAが需要抑制を緊急提言――在宅勤務・低速走行・飛行機削減で史上最大の供給途絶に対応 [Financial Times]
🛢 イラン戦争がCERAWeekに影を落とす――ヤーギン氏「悪夢」の分岐点は3月27日 [Axios]
⚡ 欧州の再エネ拡大、イラン危機による電力価格急騰を緩衝――2022年危機との明暗 [Bloomberg Green]
🚗 EV普及で2025年に日量230万バレルの石油消費を回避――燃料高騰が電動化需要を再加速 [Bloomberg Green]
🇨🇳 中国・第15次五カ年計画の核心――エネルギー安全保障が脱炭素を上回る国家最優先事項に [Sightline Climate]
🔥 再エネが普及しても天然ガスは生き残る――依存度を下げる方策はある [The Economist]
🌋 地熱発電がトランプ政権の再エネ規制を免れIPOへ――次世代EGSが電力需要急増に応える [Bloomberg Green]
🔋 米国産バッテリー金属の調達競争が加速――廃電池リサイクルのNth Cycleが11億ドル供給契約を締結 [Heatmap News]
🌡 「4,433年に一度」の記録的熱波が米西部を直撃――水力発電・山火事・農業に連鎖的打撃 [Heatmap News]
🏛 米24州・10都市、EPA「危険認定」撤廃を提訴――気候規制の法的根拠めぐり攻防激化 [AP]
【1】 🛢 IEA、イラン危機受け「在宅勤務・低速走行・飛行機削減」を緊急提言――史上最大の石油供給途絶に需要側対策で応じる [3/20 Financial Times]
国際エネルギー機関(IEA)は、イラン戦争による原油100ドル超えを受け、在宅勤務の拡大・速度を落とした運転・航空利用削減・カーシェアリングなど需要抑制策を加盟国に緊急提言しました。ホルムズ海峡の事実上の封鎖により世界供給の約20%が遮断され、IEAは「石油市場史上最大の供給途絶」と表現しています。加盟国は4億バレルの備蓄協調放出と対露制裁一部解除を実施しましたが、IEAは「供給側措置だけでは不十分」と明言しました。1970年代のアラブ石油禁輸以来の需要側介入要請であり、各国政府の対応は分かれています。
▶ 日本企業の事業継続計画(BCP)に「需要抑制フェーズ」を組み込む時機 / イタリア型「減税で需要刺激」とアジア型「配給・節電」の対立が示す政策リスクの非対称性
【2】 🛢 イラン戦争がCERAWeekに影を落とす――ヤーギン氏「悪夢のシナリオ」の分岐点は「週単位」から「月単位」への移行 [3/19 Axios Energy]
世界最大級のエネルギー業界会議CERAWeek(ヒューストン、3月23日〜3月27日)が、イラン戦争による原油100ドル水準・ホルムズ海峡の事実上の封鎖という異例の緊張下で開催されます。エネルギー史家のダニエル・ヤーギン氏は「イラン戦争は47年前から醸成されてきた」と歴史的文脈を示しつつ、「現時点ではまだ悪夢のシナリオではない」と述べています。一方で「数週間を超えて長期化すれば悪夢になる」と警告しており、開戦から丸1カ月を迎える3月27日が重要な分岐点と見られています。UAE石油相・米エネルギー長官・元国防長官らが一堂に会する舞台裏の協議が市場や戦況に影響を与える可能性も指摘されています。さらに同氏は「再エネはもはや気候変動ではなくエネルギー安全保障の文脈で再定義される」とも述べています。
▶ CERAWeekの舞台裏協議が短期の市場を動かす可能性を注視 / 「再エネ=エネルギー安全保障」への言説転換は日本のGX投資の対外説明を変える好機
【3】 ⚡ 欧州の再エネ拡大、イラン危機による電力価格急騰を緩衝――2022年エネルギー危機との明暗 [3/17 Bloomberg Green]
イランをめぐる地政学的緊張で原油・天然ガス価格が急騰する中、欧州の電力価格は2022年のロシア危機時と比べて大幅に安定しています。太陽光・風力発電の拡大と季節的な需要減少が価格上昇を緩衝しており、ラボバンクは「再エネがなければ欧州電力価格はすでに約3割高かった」と試算しています。フランスの原子力発電所の稼働改善も供給安定に寄与しています。一方、太陽光発電が落ちる夕方のピーク時間帯にはオランダで400ユーロ/MWhを超える急騰も発生しており、再エネ主体の市場構造がもたらす新たな価格変動リスクも顕在化しています。
▶ 再エネ比率と電力価格リスクの逆説(ダックカーブ型の価格変動リスク)を電力調達戦略に織り込む必要性 / エネルギー安全保障戦略における再エネの「地政学的免疫」を再評価する好機
【4】 🚗 EV普及で2025年に日量230万バレルの石油消費を回避――イラン戦争の燃料高騰が電動化需要を再加速 [3/18 Bloomberg Green]
BloombergNEFの推計によると、世界のEV普及により2025年に日量230万バレルの石油消費が回避されました。同機関は2030年までにこの数字が525万バレルに倍増すると予測しています。現在は電動二輪・三輪車が回避量の大半を占めていますが、乗用車EVの増加で構成は変化します。中国では2025年にEV販売比率が初めて50%を超え、ベトナム38%・タイ21%とアジア新興国での普及が急拡大しています。中東紛争による燃料価格高騰がEVへの関心を再燃させており、エネルギー安全保障の観点からEVの経済合理性が改めて注目されています。
▶ アジア新興国市場でのEVサプライチェーン戦略を再点検 / 原油価格ボラティリティがEV普及の「政策不要の推進力」に――規制ドライバーと経済ドライバーを分けたシナリオ分析の重要性
【5】 🇨🇳 中国・第15次五カ年計画の核心――「エネルギー安全保障」が脱炭素を上回る国家戦略の最優先事項に [3/13 Sightline Climate]
中国が発表した第15次五カ年計画(2026〜2030年)は、クリーンエネルギーをGDPの11.4%を占める経済成長の柱と位置づけ、「発電拡大」から「系統・蓄電・グリーン燃料を含む新型エネルギーシステム構築」へと戦略を進化させています。国家電網(State Grid)は前計画比40%増となる4兆元(約85兆円)の投資計画を発表しました。脱炭素目標は炭素強度17%削減と前計画より後退しているものの、エネルギー消費規制から排出総量・強度の「双制御」への転換により政策執行の実効性は高まる見通しです。専門家は「目標は控えめだが実績は上回る可能性が高い」と評価しています。
▶ 「エネルギー消費量・消費強度の二重規制」から「炭素排出量・排出強度の二重規制」への転換は中国サプライチェーン全体の排出管理コストを押し上げる / ゼロカーボン産業パーク100カ所・輸送回廊1万kmは日系企業の中国事業立地戦略を塗り替える可能性
【6】 🔥 再エネが普及しても天然ガスは生き残る――依存度を下げる方策はある [3/19 The Economist]
イラン危機による第二次ガスショックを受け、エコノミスト誌は再生可能エネルギーとバッテリーだけではエネルギー安全保障を完結できないと論じています。再エネ比率90%の電力系統でも、残り10%の時間帯はほぼすべての電力を化石燃料に依存する構造は変わらず、長期蓄電技術(鉄空気電池・水素など)はいまだ黎明期です。一方でスペインではガスが電力価格を決定する時間帯が全体の15%にとどまる成功例も示されています。処方箋として、時間帯別価格設定・系統間連系の拡大・戦略備蓄の整備を挙げており、「ガスへの依存は減らせるが、即座の脱却は不可能」と結論付けています。
▶ 「再エネ比率=エネルギー安全保障」という単純図式を修正し、長期蓄電・需要応答・系統接続を包括した調達戦略の再設計が急務 / LNG調達の戦略備蓄化と時間帯別コスト管理が企業競争力に直結する時代へ
【7】 🌋 地熱発電がトランプ政権の再エネ規制を免れIPOへ――フラッキング技術転用の次世代EGSが電力需要急増に応える [3/19 Bloomberg Green]
米地熱スタートアップのFervo Energyが、トランプ政権の風力・太陽光向け優遇廃止の影響を受けずに事業拡大を続け、今年中に20〜30億ドル規模のIPOを目指しています。同社はシェール掘削のフラッキング技術を応用した「拡張型地熱システム(EGS)」で地中熱を発電に活用し、掘削コストを従来比75%以上削減しています。ユタ州ケープステーションで建設中の大型プロジェクト向けに4億2,100万ドルの債務調達を完了し、全電力の買い手はすでに確定済みです。AI・データセンターの電力需要急増を背景に、24時間安定供給可能なクリーン電源として地熱への注目が急速に高まっています。
▶ 日本は世界第3位の地熱ポテンシャルを持ちながら開発停滞――EGS技術が地殻変動をもたらす可能性 / 「ファーム電源」プレミアムが電力市場の新たな価値軸に、AI・データセンター向け電力契約が相場を塗り替え始めている
【8】 🔋 米国産バッテリー金属の調達競争が加速――廃電池リサイクルのNth Cycleが11億ドルの供給契約を締結 [3/20 Heatmap News]
廃リチウムイオン電池から電気化学的手法でニッケル・コバルト・銅を回収する米スタートアップのNth Cycleが、資源大手トラフィグラと10年間・総額11億ドルの拘束力ある供給契約を締結しました。契約規模はニッケル2,000トン・炭酸リチウム1,500トンで、トランプ政権が推進する国内精製・リサイクル強化策(5億ドル支援)とも連動しています。同社の技術は廃電池の「ブラックマス」を液体電解質に溶解し電気化学セルで金属イオンを析出させるもので、従来の大型製錬所と比べコストを最大70%削減できる小型モジュール型システムです。既存のリサイクル施設や廃材処理拠点に後付け設置できる点が競争優位であり、2028年にサウスカロライナ州とオランダでの稼働を予定しています。同週にはエネルギーデータAIのHalcyonが2,100万ドルのシリーズA、低炭素コンクリートのCocoonが1,500万ドル、CO2から繊維を生産するRubiが750万ドルをそれぞれ調達しており、米国内の重要鉱物・素材分野への投資が広範に加速しています。
▶ 廃電池リサイクルが「第二の鉱山」として商業インフラに成熟――日系電池・自動車・商社にとって正式な供給ポートフォリオ組み込みを判断する局面 / モジュール型・分散型精製が重要鉱物戦略の新軸に、国内廃電池回収インフラとの組み合わせにも注目
【9】 🌡 「4,433年に一度」の記録的熱波が米西部を直撃――水力発電・山火事・農業に連鎖的打撃 [3/20 Heatmap News]
2026年3月、米西部で気候科学者が「人為的気候変動なければ事実上あり得なかった」と評する記録的熱波が発生しました。フェニックスでは3月に105°F(40.6℃)を記録し、カリフォルニア州では米国史上最高の冬季気温109°F(42.8℃)を観測。少なくとも480か所で3月の最高気温記録を更新しています。気温上昇による急速な融雪でコロラド川水系への流入量予測が年初比で半減以下に下方修正され、水力発電容量の低下が懸念されています。また例年より数週間早い山火事シーズン入りが予測され、カリフォルニア農業への打撃も広がっています。
▶ 水力発電依存の電力系統における気候リスクを電力調達・PPA戦略に織り込む必要性 / 「物理的気候リスク」がTCFD・TNFD開示において「想定外」でなく「予測可能なシナリオ」として財務計画に組み込まれる段階に
【10】 🏛 米24州・10都市、EPA「危険認定」撤廃を提訴――気候規制の法的根拠めぐり攻防激化 [3/20 AP]
トランプ政権が先月撤廃した、温室効果ガスを公衆衛生への脅威と認定した2009年のEPA「危険認定(Endangerment Finding)」をめぐり、米24州・10都市・5郡が3月19日、コロンビア特別区連邦控訴裁判所に提訴しました。同認定はクリーンエアー法に基づく自動車・発電所・石油ガス施設への温室効果ガス規制すべての法的根拠であり、撤廃によりこれらの排出基準が無効化されます。ニューヨーク州など民主党系の州・都市が主導し、「連邦政府が気候変動対応の核心的責任を放棄した」と主張しています。最終的に保守派多数の連邦最高裁が判断を下す可能性が高く、米国の気候政策の行方を左右する司法闘争となっています。
▶ 規制リスクの二重構造に注目――連邦規制が骨抜きになる一方、訴訟参加24州は独自規制を強化する動きへ / 最高裁判断が国際カーボン市場・EU CBAM・日本企業のScope 3開示戦略にも波及する可能性
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