Vo:203: 危機がつくった需要——ホルムズ封鎖と再エネ・EVの静かな加速

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Vol.196: GX-ETS義務化始動、石炭規制緩和に原発再稼働——日本のエネルギー政策が同時多発で動く[4/2 Japan Climate Curation #196] 🎧 - 🇯🇵日本語音声概要
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【⭐📰 今週のニュース・トピックス】 *先週号を見逃した方はこちらからどうぞ
🌏 湾岸危機はアジア危機へ——エネルギー・食料・政治安定を揺るがす三重の打撃 [The Economist]
⚡ 今回のオイルショックは1970年代より深刻——だが初めて「優れた代替手段」が存在する [The New York Times]
⚡ イラン戦争が消費者の「脱化石燃料」を加速——EV・太陽光・ヒートポンプに世界的需要急増 [Bloomberg Green]
🛢 イラン戦争がクライメートテック資本に与える連鎖的打撃 [Heatmap News]
🇨🇳 中国気候エネルギー最前線——EV黒字化・明陽風電の英国拒否・イラン戦争が加速させる転換 [Carbon Brief]
🎙 気候テックは欧州のエネルギー安全保障を強化する——中東危機が加速させる転換点 [Bloomberg Green]
🇺🇸 トランプ時代を生き延びるクリーンエネルギー企業——地熱・蓄電池・AI需要に活路 [The New York Times]
🌏 仏TotalEnergiesとアブダビのMasdar、アジア9カ国で2,200億円規模の再エネ合弁設立 [The Wall Street Journal]
💰 今週の気候テック資金調達——マイクロモビリティ・産業膜分離・グリッドAIに相次ぐ大型投資 [Heatmap News]
🌏 アジア最大の気候テックコンペ「Liveability Challenge 2026」——日本のSpacecoolも最終選考8社に [Eco-Business]
【1】 🌏 湾岸危機はアジア危機へ——エネルギー・食料・政治安定を揺るがす三重の打撃 [4/1 The Economist]
ホルムズ海峡封鎖により、アジア経済は燃料価格高騰・財政圧迫・供給不足という三重のリスクに直面しています。ホルムズ経由の石油・ガスの8〜9割はアジア向けであり、フィリピンやバングラデシュなど脆弱国は特に深刻な打撃を受けています。日本でもバスや銭湯の営業縮小など実体経済への影響が顕在化しています。アジア開発銀行は域内インフレ率が5%超に達する可能性を警告しており、農業用肥料の海上貿易の3分の1が滞留する影響で食料価格の上昇も避けられない見通しです。エネルギー安全保障への回帰として石炭復活も進んでいます。
▶ 「石炭復活 vs 再エネ加速」の二極化が東南アジア市場戦略を左右する:フィリピン・ベトナム・タイは3週間分の石油備蓄しか持たず、政治的圧力から石炭回帰が進む一方、太陽光・EV・原子力への投資加速も同時並行で起きている。
【2】 ⚡ 今回のオイルショックは1970年代より深刻——だが初めて「優れた代替手段」が存在する [4/1 The New York Times / Opinion 記事 by Jonathan Mingle]
イランとの戦争が引き起こしたエネルギー危機は、IEA事務局長が「史上最大のエネルギー安全保障上の脅威」と表現するほど深刻で、1970年代の石油危機やロシアのウクライナ侵攻をも上回る規模です。一方、今回が過去のオイルショックと根本的に異なるのは、太陽光・風力・EV・蓄電池という安価で普及した代替手段が初めて存在する点です。パキスタンでは中国製太陽光パネルの急普及により発電の約30%を太陽光が担い、今年だけで70億ドルの化石燃料輸入回避が見込まれています。危機を契機に、電化とクリーンテック国内製造能力の構築がエネルギー安全保障の核心と位置づけられつつあります。
▶ パキスタンの「太陽光30%化」(2020年時点で3%に過ぎなかった太陽光比率が5年足らずで30%に達した事例)は日本の新興国エネルギー投資戦略の参照モデルになる / 中国の「電化先行戦略」(過去10年で輸送・産業部門の電化を進め石油消費を日量100万バレル超削減)が地政学的優位に直結した事実は日本の産業政策への警鐘
【3】 ⚡ イラン戦争が消費者の「脱化石燃料」を加速——EV・太陽光・ヒートポンプに世界的需要急増 [3/26 Bloomberg Green]
イランとの戦争による原油価格高騰を受け、世界各地でEV・太陽光・ヒートポンプ・IHクッキングヒーターへの需要が急拡大しています。英国ではEV問い合わせが30%増、ドイツでは太陽光パネル販売が前月比2倍超、インドではIH調達器のオンライン販売が30倍に急増しました。IEAのビロル事務局長は「主な原動力は気候変動ではなくエネルギー安全保障だ」と指摘します。クリーンテック製品がかつてないほど安価・入手容易になった今回のショックは、消費者の行動変容を過去のオイルショックより大規模かつ速く引き起こす可能性があります。一方、米国では補助金廃止と天然ガスの国内供給が緩衝材となっており、転換の勢いは他国より鈍い状況です。
▶ 「エネルギー安全保障=電化」という消費者行動の転換は、日本の家電・住宅設備メーカーにとって海外市場での需要急拡大を意味する / パキスタン・インド・エチオピアの「リープフロッグ型電化」は新興国ビジネスモデルの転換点を示す
【4】 🛢 イラン戦争がクライメートテック資本に与える連鎖的打撃 [4/3 Heatmap News]
ホルムズ海峡封鎖により、湾岸諸国のオイル収入が激減し、UAEやサウジアラビアなどの政府系ファンドによるクライメートテックへの投資が停滞するリスクが浮上しています。これらの投資家はDAC・グリーン水素・長期蓄電池など商業化前の技術に「忍耐資本(Patient Capital)」を供給する重要な役割を担っており、その後退は初期段階スタートアップの資金調達環境を直撃します。一方、太陽光・蓄電池のコストは引き続き低下しており、エネルギー安全保障の観点から再エネ普及は加速するとの見方もあります。欧米政府がギャップを埋める役割を担えるかが今後の焦点です。
▶ 湾岸系「忍耐資本」の空白が日本企業の商社・CVCや政策金融が代替プレーヤーとして浮上する可能性も。/ ブルー水素・CCUSへの過剰期待が地政学リスクで前倒し修正され脆弱性が露わに
【5】 🇨🇳 中国気候エネルギー最前線——EV黒字化・明陽風電の英国拒否・イラン戦争が加速させる転換 [4/2 Carbon Brief]
中国の気候・エネルギー情勢を伝えるCarbon Brief中国版の隔週ブリーフィングです。中国政府は「低炭素路線を揺るぎなく推進する」と表明する一方、イラン戦争を受けエネルギー転換の加速方針を確認しました。EV分野ではLeapmotor・Nio・XPengが初の黒字化を達成し、中東の混乱を背景に世界の販売店で中国製EVへの需要が急増しています。一方、英国政府は安全保障上の懸念を理由に中国の風力大手・明陽智慧能源のスコットランド工場計画を却下しました。国内ではSinopecが新エネルギーへの代替進展を理由に2025年の利益が36.8%減少と発表しています。
▶ 英国による明陽風電拒否は「中国製風力サプライチェーン排除」の国際的連鎖を示す先例 / 中国政府は再エネ推進を掲げながら、石炭化学・炭鉱メタンを「エネルギー安全保障の要」として同時強化しており、「再エネ+石炭の二本立て」が中国の本音の戦略
【6】 🎙 気候テックは欧州のエネルギー安全保障を強化する——中東危機が加速させる転換点 [4/2 Bloomberg Green]
中東情勢の緊迫化を受け、欧州の気候テック投資家オロール・ベルフラージュ氏がBloomberg Zeroポッドキャストに出演し、エネルギー転換の現状を論じています。同氏は「気候テックは常にレジリエンス技術であった」と指摘し、今回の危機が防衛・安全保障予算と気候投資の垣根を崩す契機になると主張します。また欧州は太陽光・風力・地熱など自給可能な技術を既に保有しており、政策決定者と資本の「躊躇」が解消されれば急速に展開できると強調。米国がIRAを後退させる中、欧州が気候テックのグローバルハブとして台頭する地政学的機会が到来しているとも述べています。
▶ 「気候投資=防衛投資」の再定義は日本の政策・予算議論にも応用可能 / 欧州産業界が「オフグリッド地熱」に向かう動きは日本の重工業・商社にとって商機
👆YouTubeの自動翻訳音声トラックを使うことで、海外・英語圏のニュース番組を日本語で手軽に視聴できるようになりました(2026年2月ごろから幅広く利用可能になっているようです)。Climate Curationでは、気候・エネルギー分野の良質な海外コンテンツを継続的に紹介していきます。視聴する際はYouTubeのメニューから「音声トラック」を開き、日本語を選択すると、自動翻訳された日本語音声で視聴できます。
【7】 🇺🇸 トランプ時代を生き延びるクリーンエネルギー企業——地熱・蓄電池・AI需要に活路 [3/28 The New York Times]
トランプ政権による補助金打ち切りや洋上風力規制の強化により、米クリーンエネルギー産業は厳しい環境に置かれています。一方で、地熱・原子力・蓄電池・産業電化など政権の支持を受ける、あるいはAIデータセンター需要と親和性の高い分野は前進しています。補助金依存を脱却し「経済合理性だけで成立するビジネスモデル」へのシフトが業界全体のトレンドとなっており、グリーン水素や炭素回収は冬の時代を迎えています。米国の気候テック政策の空白を好機と捉え、欧州・中国がスケールアップ競争で先行するリスクも指摘されています。
▶ 「補助金依存から経済合理性へ」のシフトは日本の気候テック投資評価基準にも直結する / 米国の気候テックスケールアップ空白が日本企業の欧州・アジア展開を後押しする
【8】 🌏 仏TotalEnergiesとアブダビのMasdar、アジア9カ国で2,200億円規模の再エネ合弁設立 [4/2 The Wall Street Journal]
フランスの石油メジャーTotalEnergiesとアブダビの国営再エネ企業Masdarが、アジア9カ国における陸上再エネ事業を統合する22億ドル(約3,300億円)の合弁会社を設立しました。日本・韓国・インドネシアなどを対象に太陽光・風力・蓄電池プロジェクトの開発・運営を行い、両社が50%ずつ出資します。現時点で3GWの稼働資産と2030年までに稼働予定の6GWを合わせた計9GWのポートフォリオを保有し、Masdarが掲げる2030年までの100GW目標の達成を加速させる狙いです。アジアが2020年代の世界の電力需要増加を牽引するとの見通しを踏まえた戦略的布石です。
▶ 日本が対象9カ国に明示されたことは、欧州石油メジャーとGCC資本による国内再エネ市場への本格参入を意味する / 中東ソブリン系資本と欧州メジャーの連合がアジア再エネ市場の「資本の厚み」を変える
【9】 💰 今週の気候テック資金調達——マイクロモビリティ・産業膜分離・グリッドAIに相次ぐ大型投資 [4/3 Heatmap News]
今週の気候テック資金調達では、Rivianの電動バイクスピンオフ企業Also が2億ドルのシリーズCを調達し評価額10億ドルに到達、DoorDashとの自律配送車両開発も発表されました。産業分離プロセスを膜技術で電化し分離段階のエネルギーを最大90%削減するVia Separationsは3,600万ドルを調達、Aramco Venturesなど石油系投資家が主導しました。データセンターのAIワークロードを制御して最大100GWの既存グリッド容量を解放するEmerald AIは2,500万ドル、物理シミュレーターでグリッドの潮流解析を数カ月から数分に短縮するThinkLabs AIは2,800万ドルをそれぞれ調達しています。
▶ Aramco VenturesによるVia Separations出資は「石油系資本が産業電化技術に本格参入」するシグナル / 「データセンターをグリッド資産に変える」発想は日本の電力系統逼迫問題への直接的な処方箋(Emerald AIが示すAIワークロードの需要応答制御は、大規模データセンター投資が加速する日本においても系統連系制約の解消策として応用可能)
【10】 🌏 アジア最大の気候テックコンペ「Liveability Challenge 2026」——日本のSpacecoolも最終選考8社に [Eco-Business]
シンガポールの政府系投資ファンド(ソブリンウェルスファンド)テマセクの公益財団であるテマセク財団主催のアジア最大級の気候テックコンペ「Liveability Challenge 2026」が、100カ国以上から過去最多の1,500件超の応募を集め、8社のファイナリストを発表しました。英・米・シンガポール・エストニア・フランス、そして日本のSpacecoolが選出されています。テーマは「脱炭素」と「都市冷却」の2本柱で、炭素回収・水素・先進素材リサイクルなど幅広い技術が対象です。上位2社にはテマセク財団から各100万シンガポールドル(約1億1,000万円)、脱炭素部門上位2社にはA*STARから追加100万ドルが授与され、総額400万シンガポールドル(約4億4,000万円)超の支援となります。グランドファイナルは5月20日、シンガポールで開催されます。
▶ Spacecoolの選出は「日本発パッシブ冷却技術」のアジア展開への布石 / 気候テックVC投資は2025年にグローバルで8%増の405億ドルと回復基調(Sightline Climate調べ)
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