Vol.202:「ネットゼロ」が消えた週——CERAWeekの沈黙、Googleの排出量50%増、そしてホルムズが揺さぶる商品連鎖

ニュースの内容を音声で聴くと立体的に全体像を理解しやすいと感じることがあります。長尺版日本語版音声解説[約15分]を実験的に作成しています。ご希望の方はコメント・感想など添えて連絡いただけたらDMでお送りします🙂。
市川裕康 2026.03.28
誰でも

こんにちは。新しく登録してくださった皆様、ありがとうございます。気候変動・脱炭素・気候テック専門のニュースレター「Climate Curation」編集人の市川裕康です。

🎧 音声概要(NotebookLM):🇯🇵日本語版 & 🇺🇸英語版 *長尺版日本語版音声解説[約15分]を実験的に作成しています。ご希望の方はコメント・感想など添えて連絡いただけたらDMでお送りします🙂。

📬 英語版:Japan Climate Curation(毎週 水 or 木曜)👇先週配信号👇

***

こうした情報収集・キュレーションの手法に関心をお持ちの方へ——生成AIを活用したニュースキュレーションの勉強会やセミナーのご依頼も随時受け付けています。お気軽にご連絡ください。

免責事項:要約・翻訳にClaude・Genspark・Manus・Perplexity・NotebookLM等を使用しています。

***

⭐📰 今週のニュース・トピックス】 *先週号を見逃した方はこちらからどうぞ

  • 🛢 「シュレーディンガーの原油」——ホルムズ封鎖が生む史上最大の不確実性と価格の奇妙な膠着 [NPR]

  • 🛢 イラン戦争が石油の枠を超えて揺さぶる商品市場——尿素・アルミ・ヘリウムまで供給危機が連鎖 [The Economist]

  • ⚡ CERAWeek 2026総括——「混乱が新常態」、地政学・AI・許認可が世界のエネルギー地図を塗り替える [Sightline Climate]

  • 🤝 CERAWeekから「脱炭素」が消えた——グリーン投資は水面下に潜行、ネットゼロは死語に [Axios]

  • 🇨🇳 中国の第15次五カ年計画が映す気候テックの未来——水素・核融合を「産業戦略」に格上げ [Heatmap]

  • 🌱 TIME誌「2026年 米国トップGreenTech企業250選」——ジオサーマルとAI電力需要が上位を席巻 [TIME]

  • 🏭 気候テックはデータセンター産業へ収斂——電力・蓄電・核融合ライセンスまで、AI需要が再編を加速 [Heatmap News]

  • 🤖 AI急拡大が「2030年脱炭素目標」を直撃——大手テック企業の排出量は軒並み増加、天然ガス依存が加速 [AP]

  • 🧪 プラスチックが体を壊す——Netflixドキュメンタリーが突きつける「今すぐ変えるべき」現実 [The Guardian]

  • 🧭 気候変動の混乱に備えるために——「個人の気候戦略」を教えるオンライン講座が米国で広がる [The New York Times]

***

ホルムズ海峡の封鎖が続く中、原油価格は1日に35ドル超の乱高下を繰り返しながら現在1バレル約110ドルで推移しています。「長期化すれば1970年代の石油危機を超える」との見方がある一方、短期終結への期待が価格上昇を抑制する「シュレーディンガーの猫」状態が続いています。トランプ大統領の発言が市場を動かし、市場の反応がトランプの政策判断にも影響するフィードバックループが形成されています。価格抑制は短期的には消費者の負担を和らげますが、供給調整シグナルを遅らせることで事態長期化時の価格急騰リスクを蓄積しているとアナリストは警告します。現在の供給不足は約1,000万バレル/日と、コロナ禍の需要蒸発に匹敵する規模です。

▶ 「価格シグナルの遅延」は日本企業のエネルギーコスト見通しに構造的な不確実性を埋め込む / ホルムズリスクは再エネ加速の地政学的論拠を強化し、GX投資判断を前倒しさせる

***

第3次湾岸戦争の開戦からわずか3週間で、ホルムズ海峡の封鎖は石油にとどまらず多岐にわたる商品供給を直撃しています。世界のアルミ取引の24%、尿素の22%、ヘリウムの3分の1、硫黄の45%が湾岸地域から供給されており、価格は軒並み急騰。半導体製造に不可欠なヘリウムはカタールのRas Laffan停止で代替供給源がなく、肥料不足は北半球の春作付けを直撃します。プラスチック原料・医薬品・鉄鋼ビレット・アルミも不足が深刻化し、アジア精製業者は処理削減を余儀なくされています。肥料大手ヤラのCEOは「長期封鎖は食料供給に壊滅的」と警告します。

▶ ヘリウム・アルミ・石化原料の供給途絶は日本の製造業・再エネ産業を直撃する構造的リスク / 肥料・食料クライシスはScope 3対応と食料安全保障の交差点として日本企業の戦略に直結

***

第44回CERAWeek(参加者1万1,000人超)は、イラン戦争・AI電力需要・許認可遅延という3つの混乱が交差する中で開催されました。エネルギー安全保障を最優先とする「新ジュール秩序」への回帰が鮮明となり、脱炭素は優先順位3位に後退。NVIDIAが6大電力会社と「柔軟なAIファクトリー」を構築し、テック企業がエネルギー企業化する収斂が加速しています。一方、次世代原子力・地熱・核融合は過去最大の存在感を示し、地熱では標準化された資源分類フレームワーク(GRMS)も発表されました。ガスタービンの調達リードタイム6〜7年・コスト3倍という供給制約と、許認可・労働力不足が全分野の共通課題として浮上しています。

▶ 日本・韓国はLNG備蓄と調達先の柔軟な振り替え対応で短期的な耐性があると評価されたが、供給途絶の長期化でその優位は急速に失われる可能性も / 地熱・核融合・次世代原子力の「許認可・サプライチェーン整備」が日本企業の新たな参入機会に

***

世界最大のエネルギー会議CERAWeekにおいて、低炭素投資チームの存在感が著しく低下しました。BlackstoneやMacquarie、TPGといった大手金融機関のエネルギー転換チームは参加規模を縮小するか、目立たない形での参加にとどめました。トランプ政権による低炭素エネルギーへの広範な攻撃を背景に、グリーン案件への言及が風評リスクになりつつあります。会議の講演枠も脱炭素関連は例年比で大幅に減少し、化石燃料回帰の空気が支配しました。数十に及ぶ投資家・銀行家・電力・テック幹部との会話の中で、「ネットゼロ」という言葉を口にした関係者は皆無だったといいます。低炭素案件の取引自体は継続していますが、公の場での発言を避ける傾向が顕著になっています。

▶ 「公言リスク」の台頭は日本企業のGX対外発信戦略の見直しを迫る / 水面下で続くグリーン案件の取引は、情報格差を持つプレイヤーに優位をもたらす(CERAWeekでの「沈黙」は低炭素投資の停止を意味しない)

***

中国の第15次五カ年計画は、太陽光・EV・蓄電池といった既存の気候テックにとどまらず、グリーン水素・核融合を「未来産業」として明記しました。水素については輸送・電力・産業への応用拡大、電解槽の技術向上、グリーンアンモニア・メタノール・SAF(持続可能な航空燃料)への展開を明示。政府は水素の端末価格を1kg当たり25元(約3.5ドル)以下に引き下げ、燃料電池車両を10万台に倍増する4年間のパイロット事業も始動させました。一方で石炭(一次エネルギーの約55%)の段階的廃止は盛り込まれておらず、専門家からは「脱炭素計画というよりグリーンテック追加計画」との指摘も上がります。

▶ 中国製電解槽の「LFP化」シナリオは日本の素材・装置メーカーへの直接的脅威 / 「石炭に触れない水素」戦略は日本の対中GXビジネスの現実的な入口

***

TIME誌が2026年版の米国トップGreenTech企業ランキングを発表しました。今年の注目株は首位に浮上した地熱スタートアップFervo Energy。水平掘削と光ファイバー計測を組み合わせたEGS(強化地熱システム)でGoogleのデータセンターに電力を供給し、2026年内に系統接続予定のユタ州Cape Station(最終出力500MW)はIPO申請とともに「バンカブルな地熱技術」の到達点として注目されます。2位のPivot Bioは遺伝子編集微生物で天然肥料を生成し、2022年以降に合成窒素肥料の使用を12万9,000トン以上削減。11位のSunrunはサブスク型太陽光モデルに加え、FordおよびTeslaとV2G技術を共同実証するなど、補助金逆風下でも革新的収益モデルで成長を続けます。

▶ 地熱スタートアップの台頭は「AI電力需要×脱炭素ベースロード」という新たな投資文脈を示す / 補助金依存から脱却したビジネスモデルの革新こそが気候テックの次のステージ

***

AIデータセンターの電力需要急増を背景に、気候テックスタートアップの事業戦略が一斉にデータセンター向けへとシフトしています。ロケットエンジン技術由来のタービンを持つArborはGridMarketと最大5GW・数十億ドル規模の電力供給契約を締結。英国最大の電力会社Octopus EnergyはVPP(仮想発電所)プラットフォームのUplightを買収し米国展開を加速。データセンター開発のCrusoeはForm EnergyおよびRedwood Materialsと大型蓄電契約を締結しました。一方、AIスタートアップEverstarはDOEおよびMicrosoftと連携し、原子炉ライセンス申請を数週間から1日に短縮する実証を達成。気候テック投資の重力がデータセンターを軸に再編されつつあります。

▶ VPP×データセンターの統合モデルは日本の電力・エネルギー事業者にとって事業開発の急所 / AIによる原子炉ライセンス短縮は、日本の原子力再稼働・新設議論に直結する制度設計課題

***

AI投資の急拡大により、大手テック企業の温室効果ガス排出量が目標に反して増加しています。Googleは約50%、Metaは60%超、Amazonは33%、Microsoftは23%超それぞれ排出量が増加。データセンターは2024年に米国電力消費の4.6%を占め、2028年までに3倍近くに達する可能性があります。各社は再エネ購入を過去最高水準に積み上げる一方、天然ガスが米国データセンター電力の40%超を担い、一部は専用ガス発電所の建設も進めます。トランプ政権による再エネ税額控除の廃止・許認可遅延が目標達成をさらに困難にしており、専門家は「個別の課題が重なり近期危機を生んでいる」と指摘します。

▶ テック企業の「実質ネットゼロ崩壊」は、再エネ調達・カーボンクレジット市場の需給を根本から変える / 「AIのせいで化石燃料依存が固定化される」という批判は、日本のGXナラティブにも影を落とす

***

Netflixドキュメンタリー「The Plastic Detox(邦題:プラスチック・デトックス)」は、不妊に悩む6組のカップルが疫学者シャンナ・スワン博士の指導のもとプラスチック曝露を3カ月間削減する実験を追います。マイクロプラスチックによる内分泌かく乱が精子数低下や不妊の一因とされ、その結果は「驚くべきもの」だったといいます。石油化学業界が政府規制を骨抜きにしてきた歴史や、FDA自体が製造業者提供データに依存してきた実態も暴きます。有鉛ガソリンやタバコと同様の構造的問題として描き、個人の行動変容だけでなく規制・産業変革の必要性を訴えます。

▶ プラスチック素材規制の強化は日本の素材・包装・化学業業界にとって構造的リスク / 「業界データに依存した規制」の脆弱性が日本でも問われる局面

***

気候変動がもたらす社会的混乱への不安が高まる米国で、未来学者アレックス・ステフェンが開発した「個人気候戦略ワークショップ」が注目を集めています。月1回・2,500ドルのオンライン講座では、居住地選択・資産防衛・収入の多様化など気候リスクへの実践的な備えを指南。J.P.モルガンが気候アドバイザリー部門を新設するなど、金融機関でも個人・法人向けの気候リスク相談需要が急増しています。気候心理学の専門家ネットワークも数名規模から700名超に拡大し、「深い方向感喪失と恐怖を感じない人はいない」と共同ディレクターは語ります。都市への楽観論を維持しつつ、「社会的結束こそ最大の防御」と訴える内容が共感を呼んでいます。

▶ 気候リスクの「個人化」は日本でも企業の人材戦略・福利厚生・拠点選択の議論に波及 / 「気候不安」を事業機会として捉えるアドバイザリー・教育市場が日本でも立ち上がる可能性も

***

〈イベントのお知らせ〉

一般社団法人Media is Hopeが2026年4月16日(木)、東京・国連大学にて「気候変動メディアシンポジウム2026」を開催します。AI台頭時代におけるメディアの役割、ファクトチェックの重要性、オーディエンス・スポンサーとの新たな関係構築をテーマに、メディア関係者・企業・専門家が議論します。同日、気候変動報道に貢献したメディア・ジャーナリストを表彰する「Media is Hope AWARD 2025」の授賞式も同時開催。日本経済新聞・毎日新聞・テレビ東京・ニッポン放送・NHK放送文化研究所・読売新聞など多様なメディアが受賞予定です。

私も過去第1回、第2回に参加する機会を得て、とても刺激ある機会でした。今年も是非参加したいと考えています☺

***

お読みいただきありがとうございました。ニュースレターが役に立ったと感じたら、ぜひLinkedInやSNSで「いいね」やシェアをお願いします。

気候変動・脱炭素・気候テック領域のリサーチやコンサルティングのご相談も承っています。お気軽にご連絡ください。

では、よい週末を🙂

市川裕康 株式会社ソーシャルカンパニー | socialcompany.org 𝕏 @SocialCompany / Bluesky socialcompany.bsky.social

📬 Climate Curation(日本語・毎週土曜)theLetter | LinkedIn 📬 Japan Climate Curation(英語・毎週水曜)LinkedIn | Substack

無料で「クライメートキュレーション|Climate Curation」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
Vol.201:イラン戦争1カ月、エネルギー秩序の「新常態」へ――IE...
誰でも
Vol.200:ホルムズ海峡封鎖で世界のエネルギー秩序が崩壊 - ドイ...
誰でも
Vol.199 イラン危機でLNG供給が崩壊――MAGAは太陽光に転じ...
誰でも
Vol.198「ネットゼロは死んだ」、EU炭素価格は急落――それでも蓄...
誰でも
Vol.197:規制の法的根拠が消えても排出量は下がる―共和党支持者4...
誰でも
Vol.196:米国「危険性認定」撤回の衝撃 - 政策逆風下でも動く4...
誰でも
Vol.195 :中国543GW、米国▲5.4兆円 - エネルギー超大...
誰でも
Vol.194 トランプ4倍速の規制破壊、それでも止まらないエネルギー...