Vol.205: 危機がつくった需要——エネルギー転換が早まる兆し

今週はホルムズ危機が「エネルギー転換の引き金」になりつつある現実を、韓国・英国・日本それぞれの動きから確認できた一週間でした。危機のたびに需要が動き、構造が変わる——そのスピードが今回は特に早い気がしています。
市川裕康 2026.04.18
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4月16日、国連大学(渋谷)で開催された「気候変動メディアシンポジウム2026」(一般社団法人Media is Hope主催)に参加してきました。テレビ局、新聞社、ラジオ局、広告代理店、気候科学者、インフルエンサーなど、多彩な顔ぶれが集い、約3時間にわたって議論が展開された濃密な場でした。* Xで投稿された当日の様子👇

特に印象に残ったのは二つのデータです。一つは、日本語のXにおける気候変動対策を否定・懐疑する投稿が2025年に約45万件と過去最多を記録したという点です。Xの自動翻訳機能によってアメリカ発の否定論が日本語圏にそのまま流入するリスクは、2024年のシンポジウムでは出てこなかった新たな論点でした。

もう一つは、世界の気候変動報道が2025年に前年比14%減、米国主要3局では35%減という数字。「日本の報道環境は相対的に恵まれている」という発言が、むしろ危機感を際立たせていました。 「脱炭素報道が義務感の文脈で語られ続ける限り、視聴者はついてこない」という指摘は、ニュースレターを編集する立場としても考えさせられる言葉でした。

ニュースレターを読んでくださっている方にもお目にかかることができ、とても嬉しかったです🙂。情報を届けるだけでなく、読者の諦念をどう崩し、日々の生活や仕事を通じてポジティブな変化に繋げられるか——そんな「問い」を持ち続けることの重要性を改めて感じた一日でした。

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免責事項:要約・翻訳にClaude・Genspark・Manus・Perplexity・NotebookLM等を使用しています。

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⭐📰 今週のニュース・トピックス】 *先週号を見逃した方はこちらからどうぞ

  • 🌊 ホルムズ封鎖が変えた世界のエネルギー地政学——中国クリーンテックの「最大のマーケティング」 [Heatmap News]

  • 🇰🇷 韓国エネルギー相、イラン戦争を「再エネ転換の転換点」と宣言——2030年に再エネ100GW目標 [CNBC]

  • 🛡 自然エネルギー財団、中東危機を機に「化石燃料からの転換加速」を政府に提言 [自然エネルギー財団]

  • 🌊 「チャイナショック2.0」——EVから太陽光まで、中国ハイテク輸出が世界の製造業を席巻 [Financial Times]

  • 🔋 使用済みEVバッテリーがAIデータセンターの新電源に——「第二の命」が拓く蓄電ビジネス [The Information]

  • 📉 エネルギー高騰の陰で欧州炭素価格が下落——EU排出枠制度の見直し論が浮上 [Financial Times]

  • ☀ エネルギー高騰が後押し——英国の家庭で太陽光パネル導入ラッシュ [Financial Times]

  • 🌫 マイクロソフトが炭素除去購買を停止——市場の8割を担った「最大の買い手」の撤退が業界を揺るがす [Heatmap News]

  • 量子AIからナノ素材まで——気候テック投資の新フロンティア [Heatmap News]

  • 🌍 サンフランシスコ気候ウィーク2026開幕——6万人超が参加する世界最大級の気候イベント [Climatebase]

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ホルムズ海峡封鎖を軸とした米イラン緊張が緩和の兆しを見せる一方、過去6週間の混乱が世界のエネルギー構造に不可逆的な変化をもたらしつつあります。化石燃料供給網の脆弱性が露呈したことで、東南アジア・南アジアを中心に再エネ・蓄電池へのシフトが加速。中国製太陽光パネル・EV・蓄電池への需要増が見込まれ、CATLの株価は紛争開始以降に急騰しています。一方で、中国のサプライチェーン支配を通じた経済的威圧リスクも浮上しており、クリーンエネルギー移行と地政学的依存という新たなジレンマが各国に突きつけられています。日本は高市前首相の台湾発言を機に中国から経済的圧力を受けた事例として本稿で言及されています。

💡インサイト▶ 化石燃料リスクの高まりが中国製クリーンエネルギー機器への需要を押し上げる一方、レアアース・磁石の供給制限に見られる中国の経済的威圧は日本企業にとって直接的な調達リスクであり、エネルギー転換戦略に中国依存度のヘッジを組み込むことが急務に。

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韓国の金聖煥・気候エネルギー環境相はCNBCのインタビューで、イラン戦争が「再エネへの根本的な転換の重要な転換点」になっていると述べ、2030年までに再エネ100GW達成を目指す方針を改めて表明しました。現在の再エネ容量は37GWで、短期的には太陽光を中心に整備を進める考えです。一方、石炭火力2基の廃止を約6カ月延期し、原発1基を再稼働するなど当面の供給確保も優先しています。太陽光部品の中国依存(市場シェア95%超)という構造問題を認めつつも、国内産業保護に向けた補助金政策で対応する姿勢を示しました。電気料金への影響は3〜6カ月後に表れる可能性があるとしています。

💡インサイト▶ 太陽光部品の中国依存度が5年で38%から95%超に急拡大した韓国の事例は、日本でも同様の課題が進行するとみられる中、石炭・原発で凌ぎながら再エネへ移行する二段階アプローチとともに、サプライチェーン戦略とGX優先順位の設計で日本企業に直接的な示唆を与えます。韓国が目指す「2030年再エネ100GW・発電比率20%以上」は日本の現状(設備容量約90GW・発電比率約26%)に近い水準であり、危機を契機に韓国が日本の現状へ急追する速度感で転換を図ろうとしている点は注視が必要です。

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公益財団法人・自然エネルギー財団は、中東危機を踏まえた緊急提言を公表しました。日本のエネルギー供給の84%を占める化石燃料輸入への依存が今回の危機で改めて浮き彫りになったとして、根本策としてエネルギー自給率の引き上げを訴え、国費を自給率向上に資する施策に集中すべきと提言しています。ガソリン補助金や石炭火力活用といった短期対応に留まらず、GX戦略と整合した構造転換を加速する好機と位置づけている点が特徴です。提言は「本年中に効果を発揮しうる7つの対策」と「制度・規制改革を含む6つの改革」で構成され、再エネ導入・省エネ・電化の加速を三本柱としています。RE100参加企業や東京都などの先行事例も根拠として示されています。

💡インサイト▶ 中東危機を機にアジア各国でエネルギー転換加速の動きが広がる中、日本でも自然エネルギー財団がGX戦略との整合を求める提言を公表したことは、RE100企業が化石燃料高騰から経営を守った実績とあわせて、企業の再エネ投資判断を後押しする論拠として活用できそうです。

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中国メーカーがEV・太陽光・蓄電池・風力タービンなど高付加価値製造業で圧倒的な競争力を持ち始め、かつての低価格消費財に続く「第二のチャイナショック」が世界経済を揺るがしています。背景には国内の過剰競争(内巻/ネイジュアン=誰もが消耗するだけの消耗戦を指す中国語)、政府補助金、割安な人民元があり、中国製品は品質を維持しながら価格を急低下させています。太陽光大手**6社の2025年累計赤字は430億元(約8,600億円)**に達しながらも補助金で操業を継続。2026年第1四半期の対EU輸出は前年比21%増と拡大が加速しています。欧州各国政府は危機感を強めており、マクロン仏大統領は「存亡に関わる問題」と表現。企業は中国のサプライチェーンに接近するか撤退するかの二択を迫られています。

💡インサイト▶ 太陽光・蓄電池・EVで常態化した補助金頼みの赤字操業が示す中国グリーンテック産業の過剰生産構造は、グローバルなサプライチェーンの価格前提と競争環境を根本から塗り替えており、各国企業が中国との向き合い方として「競合か、活用か」という戦略的選択を迫られる局面が続きます。

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EV用バッテリーは走行不能になった後も相当量の電力が残っており、廃棄・リサイクルより「リパーパス(再活用)」すべきとの認識が広がっています。RivianはRedwood Materialsと連携し、テスト車両のバッテリーパック約100個をイリノイ州の製造工場向け電源に転用すると発表。学術誌Applied Energyの新論文は、中国で主流のリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーが再活用に最適と結論づけており、中国は年間1,400GWhのLFP生産でEVから蓄電池へのサプライチェーンを構築しつつあります。米国では税控除・補助金を活用したリパーパス事業が採算ラインに乗り始めており、新品中国製と同等の約180ドル/kWhでの供給が可能になっています。

💡インサイト▶ 中国がLFP年産1,400GWhという圧倒的な生産規模を背景に「EV→第二の命(蓄電)」のサプライチェーンを構築しつつある点は、蓄電池調達で中国依存を深めたくない日本の自動車・エネルギー企業にとって、リパーパス技術・規格の国内整備を急ぐ必要性を示しています。

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中東危機によるエネルギー価格高騰が続く中、欧州のEU排出枠価格(EUA価格)は2026年初頭の87ユーロから約70ユーロへ20%下落しています。景気見通しの悪化に加え、一部政治家から排出量取引制度(ETS)の弱体化を求める声が上がったことが背景にあります。英国のETS価格はEUより23ユーロ以上安く推移しており、欧州委員会が7月までに実施予定のETS見直しと、英EU間のETS再連携交渉が今後の焦点です。専門家は「ETSを弱体化させれば一時的な負担軽減と引き換えに化石燃料依存が深まる」と警鐘を鳴らしており、脱炭素投資の方向性を左右するカーボンプライシングの行方に注目が集まっています。

💡インサイト▶ EU排出枠価格の下落と制度見直し論の浮上は、カーボン国境調整措置(CBAM)のコスト前提を揺るがす可能性があり、今夏の英EU・ETS再連携交渉の行方とあわせて、欧州・英国事業を持つ日本の製造業・商社が中期計画に織り込むべき外部変数になっています。

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中東危機による灯油・ガス価格の急騰を受け、英国の家庭・企業で太陽光パネルの導入が急増しています。英国最大の電力小売業者Octopus Energyによると、3月前半3週間の太陽光パネル販売は2月比54%増。ウクライナ戦争後の需要急増と同様のパターンが見られます。英国政府は新築住宅への太陽光パネル設置義務化やスーパーマーケットでの「プラグイン型」販売解禁を計画しており、2030年までに設置容量47GWを目指しています。一方、先週の記録的な太陽光発電量が電力需要を上回り、卸電力価格がマイナスに転じる場面もあり、系統管理の複雑化という新たな課題も浮上しています。

💡インサイト▶ エネルギー危機のたびに家庭用太陽光需要が急増する英国の「危機駆動型需要」のパターンは日本市場での需要喚起策の参照事例となる一方、発電過剰による卸電力価格のマイナス転落は系統安定化・蓄電池・需要応答(DR)分野への投資機会を示すシグナル。

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炭素除去(CDR)業界の最大需要源であったマイクロソフトが購買を一時停止し、業界に激震が走っています。同社は過去5年間で7,000万トン超の炭素除去クレジットを購入し、業界全体の需要の約8割を占めていました。撤退により新規契約は止まる一方、既存の長期契約に基づく支払いは継続される見込みです。専門家は業界再編と企業倒産の加速を予測しており、政府による恒久的な需要創出政策の不在が根本的な課題として浮き彫りになっています。米国政府の支援が途絶えれば、1980年代に太陽光パネルの技術覇権を手放した米国が、最終的に中国の量産化競争に敗れた轍を、CDR分野でも踏みかねないと専門家は警告しています。

💡インサイト▶ 単一企業依存という構造的脆弱性が露わになった今、EUが近く公表予定のCDRクレジット活用ルールは日本企業のカーボンニュートラル戦略におけるCDRの位置づけと投資判断を左右する重要な外部変数に。

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気候テック分野で多様な資金調達が相次いでいます。Bill GatesのBreakthrough Energy Venturesが主導し、量子コンピューティング企業Sygaldry1億3,900万ドルを調達。AIデータセンターの消費電力削減を目指しますが、効率化がAI利用拡大を促進し排出量を増やす「リバウンド効果」の懸念も示されています。建物の冷暖房エネルギーを最大50%削減できるナノセラミックコーティングのNanoTech Materials2,940万ドルを調達。モジュール型マイクログリッド企業Critical Loop2,600万ドルを確保し、系統連系の遅延問題に対応します。米エネルギー省は強化型地熱発電のペンシルベニア実証プロジェクトへ1,400万ドルを拠出しました。

💡インサイト▶ 量子コンピューティングが「気候技術」として位置づけられ始めているトレンド。XPRIZEとAmazonによるクリティカルミネラル循環利用コンペは、2040年に需要が4倍に拡大するとされるリチウム・コバルト・ニッケルの調達リスクに対する技術シーズ探索の場として注目

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Climatebaseが主催する「SFクライメート・ウィーク2026」が4月18日に開幕し、26日まで続きます。ベイエリア全域で650以上のイベントが開催され、参加者は6万人超、週末には7万人に達する見込みです。登壇者は1,000人を超え、元米副大統領アル・ゴア、元エネルギー長官ジェニファー・グランホルム、Kleiner Perkins会長ジョン・ドーアらが名を連ねます。プログラムはクリーンエネルギー、気候テック、輸送、食料システム、金融、政策、適応策など多岐にわたります。同イベントは数年前の約3倍の規模に成長しており、気候分野における世界最大級の年次集会として定着しつつあります。4月20日から4月26日にかけ、ワシントンDCでも「DC Climate Week」が開催されます。

💡インサイト▶ 米国の政策的逆風下でも民間・市民主導の気候アクションが拡大基調にあることを示しており、日本企業が米国の気候テック動向を把握するための重要なイベント&情報源

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