Vol.200:ホルムズ海峡封鎖で世界のエネルギー秩序が崩壊 - ドイツ製造業は進退窮まり、欧州は原発回帰へ転換、中国は脱炭素で独走、投資家は再エネに強気を貫く

今週配信分で創刊から数えてちょうど200号を迎えました🎉 。いつもお読みいただいている皆様、本当にありがとうございます。5年目もどうぞ引き続きよろしくお願いします🙂
市川裕康 2026.03.14
誰でも

こんにちは。新しく登録してくださった皆様、ありがとうございます。気候変動・脱炭素・気候テック関連のニュースレターを配信している市川裕康です。「Climate Curation」は2022年4月の創刊以来、theLetterで780名以上、Linkedinニュースレターでは1,130名を超える方にご購読いただいております。心より感謝申し上げます。

今週配信分で創刊から数えてちょうど200号を迎えました。ここまでお読みいただいている皆様、本当にありがとうございます。

トランプ政権の気候政策をめぐる動向、そして今週のイラン戦争によるエネルギー市場の混乱などが示すように、世界情勢は非常に混沌としています。それでも、気候変動対策は待ったなしという思いは変わりません。自分なりにできることとして続けてきたこのニュースレターも、春からいよいよ5年目に入ります。引き続きどうぞお付き合いいただければ幸いです。

また、最近は読者の方や企業の方から気候テック・脱炭素の情報収集・キュレーションの手法そのものに興味を持ち、お問い合わせをいただく機会が増えています。生成AIツールの驚くべき進化のおかげもあり、興味やテーマ毎にカスタマイズしたキュレーションが以前より容易になっていると感じます。今年は勉強会やセミナーという形でもお応えしていきたいと思っていますので、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

なお、先週ご案内していたスマートエネルギーウィーク期間中のミートアップですが、諸事情が重なりキャンセルとなってしまいました。楽しみにしてくださっていた方、大変申し訳ありません。またの機会にぜひお願いします。

では、今週も10本をお届けします。

ご登録がまだの方は以下のボタンからぜひご購読ください🙂

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⭐📰 今週のニュース・トピックス】

  • 🚨 ホルムズ封鎖でカタールLNG供給停止、世界経済への波及リスクが現実に [The Economist]

  • 🔀 イラン戦争が世界のエネルギー地図を塗り替える、再エネ加速と石炭回帰の「二極化」が同時進行 [NYT]

  • 🌐 イラン戦争とエネルギー転換の行方、Carbon Briefが世界への影響を徹底解説 [Carbon Brief]

  • 🌱 イラン戦争が再エネ株を後押し、2022年との違いを機関投資家はこう見る [Bloomberg Green]

  • 🏭 エネルギーコスト急騰でドイツ製造業が「本当に危機的」、脱炭素投資も暗礁に [NYT]

  • 欧州委員長「原発撤退は戦略的失敗」、SMR普及へ2億ユーロ支援策を発表 [Bloomberg Green]

  • 🌐 世界最大のエネルギー会議CERAWeek 2026、イラン戦争が直撃する中でヒューストンで開幕へ [S&P Global]

  • 🇨🇳 中国の第15次五カ年計画、控えめな気候目標の裏にある「石を踏みながら川を渡る」戦略 [FT]

  • 💰 欧州インフラ大手が15億ドル調達、グリーンスチール・次世代電池にも資金流入 [Heatmap News]

  • ⚡ 「壊してはいけない」電力会社がスタートアップとの協業に本腰、AIと電力需要急増が背景に [Heatmap News]

🎧 音声概要版をお聴きいただけます。 [Powered by NotebookLM ]

📬 英語版「Japan Climate Curation」 は毎週水 or 木曜日配信。日本の気候変動・脱炭素・気候テック関連ニュースのうち、英語圏の記事を中心にピックアップし英語でお届けしています。

*免責事項:本ニュースレターでは要約・翻訳・編集にClaude、Gemini、Perplexity、NotebookLM等の生成AIツールを使用しています。

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👉*先週号『Vol.198「イラン危機でLNG供給が崩壊――MAGAは太陽光に転じ、中国は水素建設を独走、EUは炭素市場を自ら壊す』[2026/3/7]を見逃した方はこちらから

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イランによる攻撃を受けたカタールのQatarEnergyが、LNG生産・輸出施設を停止し、不可抗力(フォース・マジュール)を宣言しました。カタールは世界のLNG供給の約2割を担っており、ホルムズ海峡の封鎖により出荷も困難な状況です。世界市場ではLNG価格が急騰し、電力・暖房・肥料生産など広範な産業への影響が拡大しています。今後の焦点は、①停止期間の長さ、②出荷再開後の回復速度、③各国の備蓄余力、④他産地からの代替調達可能性の4点であり、エコノミスト誌はいずれも楽観できないと分析しています。

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イランとの戦争によるホルムズ海峡封鎖で、世界のエネルギー供給が深刻な混乱に陥っています。世界の石油の約20%、LNGの大部分が同海峡を通過しており、供給途絶の影響はインド・韓国・台湾など広範な国に及んでいます。短期的にはタイ・台湾が石炭回帰に動く一方、欧州は米国産LNGの争奪戦を展開しています。中長期的には、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後の欧州と同様、再エネ・蓄電・原子力への投資加速が予想されます。BloombergNEFは太陽光・蓄電池への追い風を指摘する一方、金利上昇が再エネコストを押し上げるリスクも警告しています。日本は天然ガス依存度が高く、原発再稼働の加速が現実味を帯びています。「インクブロットテスト」と専門家が表現するように、同じ危機への各国の対応は全く異なり、排出量への影響は不透明です。

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地域別・セクター別の包括的リファレンスとして、詳細な地域別分析はCarbon Briefの解説をご参照ください。

米国・イスラエルによるイラン攻撃でホルムズ海峡が事実上封鎖され、世界の石油・LNG供給が深刻な打撃を受けています。原油価格は一時1バレル119ドルに達し、アジア向けLNG価格は2倍以上に急騰しました。アジア各国への影響は特に深刻で、世界の海上石油輸送量の約80%が同海峡を通じてアジアに向かっています。短期的には石炭回帰・LNG争奪戦が進む一方、欧州委員会・韓国・インドなどの指導者は「再エネ加速こそが答え」と明言しています。IEAは加盟32カ国が緊急備蓄4億バレルを放出することで合意しました。ただし金利上昇が再エネ投資コストを押し上げるリスクもあり、2022年のウクライナ危機後と同様、再エネへの本格シフトには構造的な障壁が残ります。中国は太陽光・EV・原子力の自国産業基盤を活かし、今回の危機でも「エネルギー安全保障戦略の正しさが証明された」との見方が広がっています。

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Bloomberg
@business
For green investors, the current war-fueled surge in oil and gas prices conjures up painful memories of 2022. But at Jefferies, clients are being urged to double down. bloomberg.com/news/articles/…
Iran War Tests Whether Clean Tech Learned Any Lessons From 2022For green investors, the current war-fueled surge in oil andwww.bloomberg.com
2026/03/08 22:19
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イラン戦争による原油・ガス価格の急騰にもかかわらず、機関投資家の間では再エネ株への強気姿勢が維持されています。JefferiesはクリーンエネルギーセクターへのDouble Downを推奨し、S&PグローバルクリーンエネルギートランジションインデックスはS&P500が下落する中で6%超の上昇を記録しています。BlackRockやSchroders、BNPパリバなど主要運用会社は「エネルギー安全保障」を軸に脱炭素資産への配分を維持・強化する姿勢を示しています。2022年との違いとして、再エネ企業の財務規律の向上、AIによる電力需要増、欧州での再エネ導入拡大が挙げられており、地政学的混乱が長期的には再エネ投資の新たな資本サイクルを生み出すとの見方が広がっています。

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イラン戦争による欧州の天然ガス価格の50%超の急騰が、ドイツ製造業に深刻な打撃を与えています。ドイツはもともと欧州で最も電気料金が高い国の一つであり、2022年のロシアのウクライナ侵攻以降すでにエネルギーコストの重圧を受けてきました。今回の危機でガス価格がさらに跳ね上がり、2025年に産業部門で16万人の雇用が失われた状況に追い打ちをかけています。脱炭素設備への転換には多額の投資が必要ですが、政府補助の廃止により中小製造業は化石燃料依存からも脱炭素化からも身動きが取れない状態に陥っています。欧州委員会はガス価格上限や補助金を検討する一方、産業界はETS規制緩和を求めてロビー活動を強化しており、脱炭素政策とエネルギーコスト救済の板挟みが深刻化しています。

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Bloomberg Green
@climate
2026/03/10 21:01
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欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が、パリで開催された原子力サミットで「欧州が原子力に背を向けたのは戦略的失敗だった」と明言しました。1990年に欧州の電力の3分の1を担っていた原子力は、現在15%程度にまで低下しています。委員会は同日、小型モジュール炉(SMR)の普及促進戦略を発表し、2030年代初頭の稼働を目標にETSの収益を原資とした2億ユーロの保証枠を設けます。ドイツ国内ではメルツ首相が原発廃止を「遺憾」と認める一方、環境相は「核の幻想にしがみつくべきでない」と反論しており、政治的亀裂が表面化しています。

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CERAWeek
@CERAWeek
CERAWeek 2025 convened over 10,000 participants from over 2,350 companies across 89 countries for dialogue on the agenda ahead as the world enters a new era of energy transition.



Save the dates for #CERAWeek 2026 March 23-27! Learn more: okt.to/94pEsO
2025/05/19 22:56
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2026年3月23〜27日、ヒューストンで「収斂と競争:エネルギー・テクノロジー・地政学」をテーマに第44回CERAWeekが開催されます。今年は会議直前にイラン戦争が勃発し、ホルムズ海峡封鎖によるLNG・原油供給の混乱が現実化した状況での開催となり、当初からテーマに掲げられていた「地政学リスクとエネルギー安全保障」が、図らずも会議の最重要議題として浮上しました。Shell・Saudi Aramco・Chevron・TotalEnergiesなど世界の石油メジャーCEOに加え、NextEra Energy・RWEなどの電力・再エネ大手、さらにAlphabet(Google)幹部やFord CEOなどテック・自動車業界の首脳も集結。米国内務長官も基調講演に登壇予定で、トランプ政権のエネルギー政策の方向性も注目されます。LNG市場の再編、AI電力需要、SMR戦略、グリーンスチールなどのテーマが目白押しです。

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中国の第15次五カ年計画(2026〜2030年)が発表され、GDP単位あたりのCO2排出量(炭素強度)を17%削減する目標が掲げられました。石炭消費削減の明確な数値目標は盛り込まれず、一部からは「後退」との見方もあります。しかし実態は異なります。昨年の中国のエネルギー関連排出量はすでに0.3%減少しており、太陽光・風力の急拡大が石炭発電を侵食しつつあります。EVの新車販売比率は54%に達し、IEAは2028年以降の石油需要減少を予測しています。中東危機による化石燃料依存リスクの顕在化と、米国の気候政策撤退が、中国にとって「クリーンエネルギーで国際的リーダーシップを強化する」好機となっています。

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気候テック分野への機関投資家マネーの流入が続いています。欧州の再エネインフラ大手Copenhagen Infrastructure Partnersが約15億ドルのクレジットファンドのファーストクローズを完了。クリーン鉄スタートアップのElectraはJ.P.モルガンから3,000万ドルの負債融資を確保し、トヨタ通商やNucorからの購入契約も取得済みです。また、シリコン系アノード材料のGroup14が韓国で量産を開始し、固体変圧器のHyperscale Powerも570万ドルを調達しました。米国での連邦補助削減や政治的逆風にもかかわらず、機関投資家・事業会社ともに脱炭素インフラへのコミットを維持しており、デット融資の拡大が新たなトレンドとなっています。

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米国の電力会社が、スタートアップとの連携に本格的に乗り出しています。AIデータセンターによる電力需要急増や系統連系の滞留を背景に、PG&EやNational Gridは専任のイノベーション部門を設置し、スタートアップへの投資・実証を加速させています。National Grid Partnersはポートフォリオ企業の80%以上と何らかの商業契約を締結済みで、送電線容量を20〜30%増加させるセンサー技術や、容量を2〜3倍にする新素材導体など、既存インフラの有効活用を狙った技術を採用しています。一方、「実証で終わる死(death by pilot)」と呼ばれる問題も依然根深く、規制上の制約や投資インセンティブの構造的歪みが革新技術の普及を阻んでいます。

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