Vol:207: 危機が「設計図」を書き換える——エネルギー安保と再エネが重なる転換点

連休明けの今週は、「世界は動いている、日本はどうか」という問いが浮かぶ一週間でした。IRENAが再エネ+蓄電池の24時間コスト競争力を正式に確認し、50カ国超が化石燃料削減の貿易措置で合意。北京モーターショーでは中国EVの技術水準が想像を超えるレベルに達していることが明らかになりました。【9】【10】をぜひチェックしてみてください。
市川裕康 2026.05.09
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⭐📰 今週のニュース・トピックス】

  • ⚡ イラン戦争が加速させる、エネルギー転換「最難関の局面」[Bloomberg Green]

  • ⚡ 50カ国超が化石燃料削減に向けた貿易措置の検討で合意 [Financial Times]

  • 📉 SECがバイデン時代の気候情報開示規則の廃止手続きを開始 [Reuters]

  • 🌏 アジアが牽引、世界の脱炭素投資が過去最高の2.3兆ドルに [Nikkei Asia]

  • 🔋 再生可能エネルギー+蓄電池、24時間電力供給でコスト面でも化石燃料を凌駕――IRENA報告 [IRENA]

  • ⚡ 急速充電電池・グリーンセメント・EV廃棄電池再利用――Climate Tech資金調達の最前線 [Heatmap News]

  • 🇪🇺 EUが中国製太陽光インバーターへの公的資金を禁止――安全保障上の脅威と認定 [Financial Times]

  • 🚗 米国が「見られない」中国EV――北京モーターショーが映す自動車産業の分断 [Bloomberg]

  • 🇰🇷 イラン危機が韓国の脱化石燃料を加速――EV・太陽光輸入が急拡大 [Bloomberg Green]

  • ☀ イラン危機で石油高騰も、日本の再エネシフトへの勢いはなお鈍い [The Japan Times]

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  • ノートルダム大学のエミリー・グルーバート教授がBloomberg「Zero」ポッドキャストに出演し、「移行の中間期(ミッド・トランジション)」の概念を解説した。化石燃料系と脱炭素系の二つのエネルギーシステムが並立する現在、重複コストの発生と相互制約によって移行が政治的にも経済的にも困難になっているとし、「できるだけ早く通過することが重要」と強調。イランを巡る地政学リスクはエネルギー安全保障上の再エネ優位性を示す一方、米国では規制・制度的障壁がコスト以上の障害になっていると指摘。カリフォルニア州の製油所撤退問題など、需要より早い供給減少の事例も取り上げました。

💡インサイト▶ 「移行の中間期」では化石・脱炭素の両インフラ固定費を同時負担する重複コストが生じるものの、これは早期完了で削減可能な一時的コストであり、脱炭素投資の先行支出を正当化するロジックとして機能します。同時に、カリフォルニア型の「供給が需要より先に消える」リスクは日本でも現実化しうるシナリオであり、長期調達契約の見直しを先手で進める企業に戦略的優位が生まれます。

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  • コロンビアとオランダが共催した化石燃料からの転換をテーマとする初の国際会議が、コロンビア・サンタマルタで開催され、50カ国以上が化石燃料需要を抑制する貿易措置の検討で合意しました。各国の化石燃料補助金の実態公開や、年間9,000億ドル超とされる補助金・優遇措置の撤廃に向けた財政改革も議題に上りました。一方、温室効果ガスの4割超を排出する中国・米国・インドは不参加。次回会合は2027年初頭にツバルとアイルランドが共催予定で、中国の参加が課題として浮上しています。

💡インサイト▶ 年間9,000億ドル超の化石燃料補助金の「見える化」が国際的な合意事項となったことで、補助金依存の強い国・産業との取引リスクが今後のサプライチェーン評価・与信審査に組み込まれる可能性が高まっています。日本企業や金融機関などにとって早期のエクスポージャー把握が求められます。

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  • 米証券取引委員会(SEC)が、バイデン前政権下で導入された気候関連リスクの情報開示規則の廃止に向けた規制策定に着手したことが、米予算管理局(OMB)のウェブサイトへの掲載で明らかになりました。同規則は上場企業に気候リスク・排出量・関連支出の開示を義務付けるものだったが、共和党州や業界団体の訴訟を受けて施行停止中でした。SECは「投資家にとって重要な情報への開示集中」という本来の使命への回帰を廃止理由として説明。トランプ政権の脱規制路線と整合しており、最終決定のタイムラインはOMBのレビュー完了後となる見通し。

💡インサイト▶ 米国での気候開示義務が事実上消滅する方向となったことで、ISSBやEUのCSRD基準を採用している日本企業・機関投資家にとっては、米国上場子会社・投資先への開示要求水準の「二重基準」管理コストが表面化するリスクがあります。一方で米国の規制後退は、ESG情報開示を競争優位と捉えてきた欧州・アジア系投資家の資金が、開示水準の高い非米国企業に集中する流れを加速させる可能性があり、日本企業の自発的な気候開示の戦略的価値が相対的に高まっています。

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  • BloombergNEFの推計によると、2025年の世界の脱炭素投資は前年比8%増2.3兆ドル(約360兆円)と過去最高を更新した。アジア太平洋地域が全体の47%を占め成長を主導。中国は8,000億ドルと世界全体の34%を占め首位を維持しました。日本は44%増390億ドル(約6.1兆円)に達し、オリックスや日本製鉄など大手企業の大型投資が貢献。米国はトランプ政権のESG逆風下でも3.5%増3,780億ドルを確保しました。AIデータセンターの急拡大も再生可能エネルギー需要を押し上げており、ハイパースケーラーによる契約容量は3年前比で約4倍135GWに達しています。

💡インサイト▶ AIデータセンターによる再エネ需要の急増(ハイパースケーラー契約容量が3年で4倍)は、電力調達コストと供給安定性を巡る新たな競争軸を生み出しており、エネルギー・インフラ事業者にとってはPPA交渉力と長期契約の戦略的価値が高まっています。

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  • 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、太陽光・風力と蓄電池を組み合わせたハイブリッドシステムが、優良な資源立地において24時間安定電力を化石燃料より低コストで供給できると報告しました。太陽光+蓄電池の均等化発電原価(LCOE)は54〜82ドル/MWhで、中国の新設石炭(70〜85ドル)や新設ガス(100ドル超)を下回ります。2010年比でコストは太陽光87%減・蓄電池93%減と急落しており、2035年までにさらに約40%の低下が見込まれます。AIデータセンターなど無停電電力を必要とする需要家向けや、脱炭素が難しい産業分野のクリーン燃料製造にも適用可能としています。

💡インサイト▶ 蓄電池コストの2010年比93%減により「再エネは不安定」という前提は崩れ、再エネ+蓄電池はベースロード電源として実務設計に織り込める段階に入りました。2035年に50ドル/MWh以下が現実化すれば水素・アンモニアの経済性も改善します。一方、中国・中東で低コスト再エネが急拡大する中、米国の競争力低下は電力コスト格差が日本企業の調達・生産戦略に直結するリスク軸として浮上していることを示しています。

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  • Heatmap Newsの週次資金調達レポートによると、データセンター向け電力技術とハードテック分野に複数の注目案件が集中しました。英ケンブリッジ発スタートアップNyoboltは5分以内に80%充電可能な次世代電池で評価額10億ドルを達成し、シリーズCで6,000万ドルを調達。エストニアのSkeleton TechnologiesはIPO前資金として3,900万ドルを確保。EV廃棄電池再利用のMoment Energyは4,000万ドルを調達し米テキサスのギガファクトリーを拡張します。グリーンセメントのTerra CO2はシリーズBで1億4,700万ドルに到達、米国産マグネシウム生産を目指すMagratheaは2,400万ドルを調達しました。

💡インサイト▶ Nyoboltがロボット・AIデータセンター向けに軸足を移したことは、「高速充電=EV」という既成概念の終わりを告げており、製造業・商社にとって次世代電池の投資評価軸を「EV以外の用途」へ拡張する必要性を示しています。同時に、廃棄EV電池の再利用で米国の第三者安全認証機関による業界初の安全認証を取得したMoment Energyの事例は、日本でもEV普及に伴い廃棄電池が急増する局面で、安全規格への適合が参入障壁かつ競争優位の源泉になることを先取りするシグナルです。

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  • 欧州委員会は11月1日以降、太陽光パネルや再生可能エネルギーインフラの制御に使われるインバーターについて、中国製品への公的資金拠出を禁止すると発表しました。委員会は中国製インバーターをEUの重要インフラに対する「最も深刻な脅威」の一つと位置付け、遠隔操作による電力網シャットダウンや運用データへの不正アクセスのリスクを指摘しています。中国はグローバルインバーター市場の過半を握り、EUも同水準の依存度にあるとされます。ただし代替品への切り替えによるコスト増は太陽光設置費用全体の2%未満と試算されており、日本・韓国製品が代替候補として名指しされています。

💡インサイト▶ EUが日本・韓国製インバーターを中国製の代替候補として明示したことは、日本の電機・パワーエレクトロニクスメーカーにとって欧州市場での構造的商機を示すシグナルです。同時に「クリーンエネルギー機器の安全保障リスク」という規制フレームは他の先進国市場へ波及する可能性が高く、中国サプライチェーンを抱える再エネ・蓄電プロジェクトはコスト増・遅延リスクへの備えが急務です。

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  • 2026年北京モーターショーでは、BYD・Geely・Xiaomi・Huaweiなど中国メーカーがAI・自律走行・超高性能EVを競って披露しました。BYDは航続距離約1,000kmのフラッグシップSUV「大唐」や1,000馬力の超高級コンバーチブル「Denza Z」を発表。XiaomiはグランツーリスモとコラボしたEVハイパーカーのコンセプトを公開し、テック企業からの本格的な自動車メーカー転換を示しました。AudiはTikTok親会社ByteDanceと共同開発したAIアシスタントを搭載した中国専用大型SUVを発表するなど、欧州勢も「中国向け」戦略を加速。しかしこれらの車両は関税障壁により米国市場には届きません。

💡インサイト▶ 航続距離1,500km・9分急速充電・エネルギー密度400Wh/kg超という技術水準が現実となった今、「中国は低価格品」という競争認識は完全に過去のものです。AudiがByteDanceと共同開発したAIアシスタントを中国専用モデルに搭載したように、中国テックエコシステムへの組み込みは生存条件化しており、日系自動車メーカーと部品サプライヤーが中国IT・AI企業との技術連携戦略の立案を先送りできる余地はなくなっています。

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  • イランを巡るエネルギーショックを契機に、韓国の李在明政権が再生可能エネルギー転換を加速させています。ホルムズ海峡経由で原油の70%を輸入する韓国にとってエネルギー安全保障は喫緊の課題であり、政府は太陽光・風力・EV補助金を含む5,400億ウォンの補正予算を編成しました。3月の国内EV販売は前年比2倍超、太陽光パネル輸入は137%増の過去最高を記録。2030年までに再生可能エネルギー比率20%・100GWを目標に掲げるものの、アナリストは電力市場改革の遅れや許認可・系統制約が依然として構造的障壁になっていると指摘しています。

💡インサイト▶ 韓国は化石燃料の9割超を輸入に依存しながらエネルギー転換で「15年の遅れ」を指摘される日本の隣国です。李在明大統領が「化石燃料依存を続ければ韓国の未来は深刻なリスクにさらされる」と明言したように、イラン危機はエネルギー安全保障の危うさを直撃しました。今回の補正予算と2030年目標は再生可能エネルギー・蓄電・系統関連ビジネスの商機拡大を示すシグナルであり、電力小売市場の自由化遅延と系統制約という日本共通の構造的障壁をどう突破するか、韓国の政策対応は日本にとって注目すべき先行事例といえそうです。

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  • イラン戦争による原油高騰を受けても、日本のエネルギー政策の転換は遅々として進んでいません。政府は大規模太陽光への補助金を2027年度に廃止する一方、再エネへの予算配分は国の気候・エネルギー関連支出のわずか3%にとどまります。独立系シンクタンク「クライメート・インテグレート」の平田仁子氏は「再エネへのシフトの勢いはいまだ非常に弱い」と指摘。一方、オフグリッド型住宅太陽光や営農型太陽光(ソーラーシェアリング)など、補助金・系統接続に依存しない草の根的アプローチが注目を集め始めています。ペロブスカイト太陽電池の実証実験も進んでいます。

💡インサイト▶ 政策補助金の縮小が進む中、オフグリッド型・営農型モデルなど系統接続に依存しない「小口分散型再エネ」は地域金融・農業・不動産分野の新規参入機会として浮上しています。同時に、ペロブスカイト太陽電池の特許累積数で中国が日本を逆転した事実は、「日本発技術」という優位性の賞味期限が縮まっていることを示しており、補助金依存に頼らないPPAや自己託送スキームを先行整備した企業が、エネルギーコスト管理と技術調達の両面で競争優位を確立できる局面に入っています。

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【イベント情報】

  • 5月27日(水)CIC Tokyo 環境エネルギーイノベーション(E&E)コミュニティ / 企業と社会フォーラム(JFBS)共催イベントのご案内

  • 来る5月27日(水)18:00より、CIC Tokyo(虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階)にて開催される「企業と社会フォーラム(JFBS)5月研究会 / E&Eコミュニティ Green Tech Exchange」に登壇します。当日の対談セッション(18:55〜19:25)では、Climate Curationの4年間の活動を振り返りながら、海外で進む気候テック・ネットゼロ・脱炭素を巡るナラティブが日本とどう異なるか、いま注目しているトピックやニュースキュレーションを行う際の情報源や生成AI活用などについてもお話しする予定です。AIガバナンスとESGの研究者、グリーン人材の専門家も登壇するパネルディスカッションも予定されており、研究者・企業・スタートアップ・投資家など幅広い方を対象とした無料イベントです(オンライン参加も可)。ご都合のよい方はぜひご参加ください。

詳細・申込はこちら → https://eande-jfbs.peatix.com/

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では、よい週末を🙂

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