1.5℃は不可能、次の戦場は『エンジニアリング』? - COP30、気候テック投資の大転換と中国の圧倒的優位

COP30もいよいよスタートですね。一方でThe Economistの今週の特集は中国のクリーンエネルギーについて。安全保障リスクを意識しながら一方でどのように学び、関係を構築するかも大事なのでは、と感じる記事が多かったです。
市川裕康 2025.11.08
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こんにちは。新規登録の皆様、ありがとうございます。気候変動・脱炭素・Climate Tech関連の週間ニュースレターを配信している市川裕康です。「Climate Curation」は2022年4月の創刊以来、theLetterで730名以上、Linkedinニュースレターでは1,120名を超える方にご購読いただいております。心より感謝申し上げます。毎週直近の1週間の間に気になった記事やコンテンツをダイジェストでお届けしています。

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*「Climate Curation」では英語圏の記事を中心にピックアップしています。日本における気候変動・脱炭素関連のニュースは毎週水曜日に配信しているJapan Climate Curationで英語で報じられているニュースを中心にまとめています。以下の【Japan Climate Curation #177】をご覧ください。

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【⭐📰👀今週気になったニュース・トピックス】

  • ブラジルのベレムで開幕したCOP30では、UN事務総長アントニオ・グテーレスが1.5C超過を「道徳的失敗と致命的な怠慢」と厳しく批判しました。気温上昇の1度1度が、特に責任のない発展途上国において飢餓や難民、喪失をもたらすと強調。一方、世界三大排出国である中国・米国・インドが首脳会議を欠席する中、国連環境計画(UNEP)の報告書は現在の政策では2.8Cの温暖化が見込まれると警告しています。ブラジル政府は熱帯雨林基金を立ち上げ、ノルウェー・フランスと共に投資を発表。2035年までに年1.3兆ドルの気候資金へのスケールアップを提唱しました。同時に、気候科学者たちは気候変動の知識への責任感から、研究成果をアドボカシーや政策提言へ繋げ、社会への行動を担う存在へ、役割を進化させています。

  • 気候モデルが初めて1.5°C目標の達成が不可能であることを示しました。UNEP報告書によると、2020年以降の排出量増加により、理論的な達成経路もすべて閉ざされています。国家貢献度(NDC)の完全履行とネットゼロ達成を前提としても、世界は2~3°C の温暖化に向かっており、1.5°C超過は今後10年以内に確実です。対応はCO2除去と除去技術への金融メカニズムの構築へ焦点が転じています。

image credit: The Economist

image credit: The Economist

  • 中国のクリーンエネルギー革命が世界を根本的に変えつつあります。887GWの太陽光容量と2024年の1,826TWhの風力・太陽光電力により、中国は新型スーパーパワーとして機能しています。この規模は全世界の核兵器のエネルギー量の5倍を超えています。再生可能エネルギーは化石燃料より安価になり、脱炭素化に必要な経済的手段を世界に提供しました。これまで先進国が脱炭素化できなかった最大の理由は経済的コストでしたが、中国はそれを解決しつつあります。中国はこのテクノロジーを発展途上国に積極的に輸出し、気候変動対策と経済利益を調和させています。化石燃料輸出からのアメリカの収益を上回るペースで、クリーンテクノロジー輸出から収益を得ています。課題としては、石炭からの完全撤退が進まず、地政学的支配力の増大が懸念されます。しかし廉価で豊富なクリーンエネルギー供給は、発展途上国の数十億人の生活改善に直結し、気候危機対策の最後の有効な手段となるでしょう。

【4】🌍 グリーンテック投資の勢力図が激変 中国の圧倒的優位に気候技術投資家が警戒 - 電池やEV産業で75~80%のシェア握る中国、段階的改善を高速スケールする戦略で西洋に大きな差 [11/7 The Energy]

  • 🙋上記記事のカバー画像には「欧米の気候テックVCのみなさん、BYDへようこそ」と歓迎のサインが表示されています。

  • 中国の緑色技術産業が世界を支配しつつあります。電池75%、太陽光パネル80%、EV70%のシェアを占め、CATLは9シグマの品質基準を実現、BYDは380分ごとに新型EVを生産しています。中国の成功戦略は既存技術の段階的改善を高速でスケールしてから革新を行う方式です。一方、西洋は大型革新に重点を置きすぎて後れを取っています。投資家は競争不可能なセクターでは協力し、競争可能な分野では中国の方法論から学ぶべきです。

【5】🎯 The SOSV Climate Tech Summit [11/3-7 SOSV Climate Tech Summit]

【SOSV Climate Tech Summit 2025ハイライト】

  • 🙋欧米を中心とした気候テックスタートアップ経営者、投資家、専門家らによる数多くのセッションが視聴可能です。COP開催中の今、市場・民間の力が試される今、改めて注目したいと思いました。YouTubeの機能として「音声トラック」で日本語を選択することで日本語吹き替えで視聴が可能です。便利になりましたね🙏。

  • SOSV Climate Tech Summitは気候変動対策の最前線に位置するクライメートテック企業のための年次サミットです。エネルギー・輸送・食品・産業材料など複数セクターから投資家・起業家・企業・政策立案者が参集。11月3-7日にライブ・バーチャル・無料で開催されました。脱炭素化への課題解決を目指す革新的テクノロジー企業と資金提供者を結ぶプラットフォームであり、合計24ものセッションは既にYouTube上のアーカイブで視聴可能です。[Day1Day2 ]


【6】🏭 What Can China's "Engineering State" Teach the West? [11/3-5 SOSV Climate Tech Summit]

  • 🙋以前から気になっていた著書『Breakneck』の著者による対談

  • Breakneck: China's Quest to Engineer the Future』の著者であるDan Wang(ダン・ワン)氏[スタンフォード大学フーバー研究所研究員]が米国と中国の根本的な違いを「法律家国家」対「エンジニアリング国家」のフレームワークで分析しています。中国は建設と製造に特化し、再生可能エネルギーで圧倒的優位を獲得。一方、米国は1960年代からの過剰な規制で建設能力を喪失しています。クリーンテック産業において中国は圧倒的リーダーで世界規模での製造展開も実現。AI競争でも米国の優位は不確実です。著者は米国が20%ほどエンジニアリング志向を強め、実物生産能力の回復を求めています。

【7】☀️ 高市新政権のエネルギー脱炭素政策を占う [11/7 エネルギーを面白く【エナシフTV】]

  • 🙋高市政権のエネルギー政策の分析がとても興味深かったです。中国に対する安全保障リスクによる自給自足へのシフトは分かりつつも、「安価な」中国のクリーンエネルギーをどのように活用し、どのように中国の気候テックイノベーションと付き合うべきか、考えさせられました。

  • 高市政権は初心表明演説でエネルギー政策の明確な方向性を示しました。安定供給と経済効率性を重視しつつ、サプライチェーン依存度をも含めたS+3E概念を適用。原子力、ペロブスカイト太陽電池、核融合エネルギーを三本柱とし、火力発電への言及を避けています。中国依存からの脱却とエネルギー自給率向上が根底にあり、シリコン系太陽光やメガソーラー反対を明言しています。外部依存排除とエネルギー自給を掲げた大規模な政策転換を表明しました。

*🙋先週話題になったゲイツ氏の発言について「気候変動対策軽視」にシフトとして批判されていた中での14億ドルもの気候変動の適応策への投資の宣言。COP30で気候変動「適応」がどのように議論され、資金が投じられることになるのか、注目です。

  • ゲイツ財団は、気候変動への適応を支援する小規模農家向けに、今後4年間で14億ドルの資金をコミットすることを発表しました。この投資は、アフリカ南部とアジア南部の農家の気候変動対応能力を強化し、作物収量の向上、家畜生産の増加、デジタルアドバイザリーサービスの提供、および劣化した土地の復興を目指すものです。10月下旬に発表されたゲイツのCOP30メモが「排出削減軽視」と批判される中での発表であり、ゲイツが示唆したとされる「排出削減 vs 適応」の二項対立が実は「両立可能」であることを、実行的に示すものとなっています。世界の食料の3分の1以上を生産する小規模農家が、公共気候資金の1%未満しか受け取っていない現状を踏まえると、この資金配分は気候投資の優先順位を「排出削減技術」から「適応戦略」へシフトさせる具体的な戦略転換であり、グローバルサウスの農家にとって必要な投資が実は「排出削減か適応か」ではなく「両方が必要」である現実を、14億ドルが象徴しています。

【9】💡 Climate Tech USA 2025: What Just Happened? [11/3-5 SOSV Climate Tech Summit]

  • 気候テック産業は政策主導から市場現実へのシフトを経験しています。「大規模気候時代」は終焉を迎え、エネルギー安全保障とジオポリティクスが気候懸念に優先される新時代へ移行しています。パキスタンの太陽光事例は、政策ではなく経済性と緊急性が3倍のマークアップでも採用を駆動することを示唆しています。グローバル電力網の3~5倍成長(AI、EV、エアコン需要)は数学的に化石燃料では対応不可能で、太陽光・風力・バッテリーが必然的に選択されています。中国はサプライチェーンを支配しますが、SMR(小型モジュール型原子炉)や地熱など新興技術では米国が競争機会を持っています。2022年成立のIRA(インフレ抑制法)の規定のうち、バイデン政権の2024年オムニバス支出法(OTB)では約80%が二大政党支持を得て生き残り、原子力・地熱・バッテリー貯蔵の税控除が維持されました。重要なのは、保護主義的自給ではなく戦略的多様性と相互依存性こそが真のエネルギー安全保障をもたらすというチャーチル的洞察です。

  • COP30開催を控え、気候変動対策が停滞しています。トランプ米大統領が気候変動を「史上最大の詐欺」と否定し、パリ協定離脱を表明しています。排出量上位の米国・中国・日本の首脳がCOP30欠席予定です。一方、国際司法裁判所は7月、気候変動対策を国家の法的義務と認定し、対策を怠ることは不法行為であり人権侵害に該当すると勧告しました。太平洋島国出身の学生27人の働きかけが契機となっています。

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【イベントご案内】

  • 12/3 開催:LEEP SUMMIT 2025 環境エネルギー "共創と実践" 〜国と都市を越えて〜
    事務局スタッフとしてご一緒している環境エネルギーイノベーションコミュニティの年末イベントであるLEEP SUMMIT、思えば過去4回開催のうち初回含め3回参加、今回5回目の参加です。多様な分野からの登壇者、参加者から毎回たくさんの刺激と学びを得ることができます。ご都合合う方は是非いらしてください:)

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【編集後記】昨日は今年で2年目となる『気候変動アクション 日本サミット』に参加しました。国内外からの多様な分野の登壇者のお話、熱量溢れる懇親会からたくさんの刺激をいただきました。Climate Curationニュースレターを読んでくださったいる方ともお目にかかることができて、とても嬉しかったです。最近は「気候変動」「再エネ」に対してSNS上などで厳しい目が寄せられる中で、「頑張っていきましょう」と声をかけられるような仲間がいてくれる存在、そのような場所の存在があることがとてもありがたかったです。Climate Curationもささやかながらそんな役割を果たせたらと改めて思いを新たにしました。普段読んでくださっている方どうしの交流会なども、ニーズがあれば是非やってみたいですね:)

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  • ここまでお読みいただきありがとうございました! 今回は以上となります。もしニュースレターが有益と感じられたら、LinkedInで「いいね」や「シェア」をお願いします。みなさんのネットワークの中で、気候変動に関する情報を必要としている方に届くきっかけになれば幸いです。

  • 気候変動、脱炭素、気候テック関連のリサーチ等にも力を入れています。海外の業界動向調査やコンサルティング等、お仕事のご相談・ご依頼がありましたら、どうぞお気軽にご連絡下さい。

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では、よい連休をお過ごしください🙂🙋

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