気候変動対策は「情報戦で敗北」? / AI電力需要が新市場創出

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市川裕康 2025.12.06
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こんにちは。新規登録の皆様、ありがとうございます。気候変動・脱炭素・Climate Tech関連の週間ニュースレターを配信している市川裕康です。「Climate Curation」は2022年4月の創刊以来、theLetterで730名以上、Linkedinニュースレターでは1,120名を超える方にご購読いただいております。心より感謝申し上げます。毎週直近の1週間の間に気になった記事やコンテンツをダイジェストでお届けしています。

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*免責事項:要約、翻訳、編集の際にChatGPT、Claude、Gemini、NotebookLMなどの生成AIツールを使用しています🙂

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*「Climate Curation」では英語圏の記事を中心にピックアップしています。日本における気候変動・脱炭素関連のニュースは毎週水曜日に配信しているJapan Climate Curationで英語で報じられているニュースを中心にまとめています。以下の【Japan Climate Curation #180】をご覧ください。

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【⭐📰👀今週気になったニュース・トピックス】

  • 気候変動対策を推進する人々は、情報戦で劣勢に立たされていると懸念を表明しています。2015年のパリ協定から10年が経過しましたが、気候否定論が復活し、化石燃料業界や産油国がその影響力を強めています。ブラジルで開催されたCOP30では、最終声明に「化石燃料」という言葉すら含まれず、1,600人もの化石燃料業界代表者が参加しました。ソーシャルメディアでは気候変動に関する誤情報が拡散され、トランプ政権下の米国を含む産油国が科学的コンセンサスを軽視しています。情報の完全性に関する宣言には欧州・南米を中心に21カ国が署名しましたが(日本は未署名)。専門家は組織的で資金豊富なキャンペーンが気候変動対策を世界的に妨害していると警告しています。

  • 東京大学の江守正多教授が、COP30の結果とトランプ政権下での気候変動懐疑論の主流化について講演しました。COP30では化石燃料脱却が後退し、1.5度目標もオーバーシュート前提となりました。トランプ政権は環境規制を全面的に弱体化させ、保守系シンクタンクが作成した「プロジェクト2025」を忠実に実行しています。気候変動懐疑論・否定論は化石燃料産業の資金支援を受けた組織的活動で、科学的不確実性を強調して政策決定を遅延させる戦略を長年展開してきました。江守氏は、こうした組織的活動の存在を社会で明示的に認識共有し警戒すべきであり、これを報じないことは状況を放置し加担することになるとメディアの責任を強調しました。一方で、気候変動を止めるビジョンは大部分の国で共有されており、日本でもその認識の堅持が必要と指摘。化石燃料脱却は消費国の需要削減で実現し、現状では中国が牽引していること、1.5度オーバーシュート後の気温下降の実現条件について議論が必要なこと、そして米国民が次にパリ協定復帰する大統領を選ぶことへの期待を述べました。

  • 中国の「エンジニアリング国家」と米国の「法律家社会」を対比したダン・ワン氏の新著『Breakneck』についてのBloomberg Green解説です。中国は太陽光、風力、EV、原子力等の気候技術で圧倒的優位を築き、現在33基の原発を建設中(米国はゼロ)。国内政治目標達成とエネルギー主権確保のため猛烈に建設を推進し、年内に車販売の半数がEVに達する見込みです。電化率では現在日本がトップですが、中国が間もなく追い抜く勢いです。一方、米国は1960年代の技術者主導の失敗への反省から規制と訴訟文化が過剰となり、カリフォルニア高速鉄道など建設が頓挫。ワン氏は米国が20%エンジニアリング的に、中国が50%法律家的になるべきと提言しています。日本は新幹線など高度なインフラ建設力を持つエンジニアリング志向の国でしたが、気候技術分野では中国の圧倒的な建設スピードとスケールに後れを取っています。エンジニアリング国家の暗黒面として一人っ子政策の残虐性も指摘されています。

  • ジョンズ・ホプキンス大学のNet Zero Industrial Policy Labは、機械学習を用いて各国のクリーンテック製造潜在力を予測する新ツール「Clean Industrial Capabilities Explorer」を開発しました。太陽光、風力、バッテリー、電解槽、ヒートポンプ、永久磁石、原子力、バイオ燃料、地熱、送電網の10技術を分析し、関税やGDP、海外直接投資よりも、電子機器、産業材料、機械、化学、金属という5つの既存産業能力が競争力を決定することを明らかにしました。ハンガリーは機械、電子、化学に強くバッテリーや地熱に優位性を持ち、ポーランドなど中欧諸国はドイツからの投資とソ連時代の化学・金属産業を基盤に成長。マレーシア、フィリピンなど東南アジア、エチオピアも「将来のスター」として浮上しました。中国は過去10年、これらの国々に戦略的投資を実施済みです。日本は産業大国として高いポテンシャルを持つものの、より明確で構造化されたグリーン産業戦略を追求すれば、さらなる恩恵を受けられると指摘されています。このツールは産業政策と気候政策を統合する知識を民主化します。

  • フィンランド・ヘルシンキで開催されたSlush 2025には約13,000人が参加し、6,000以上のスタートアップと4兆ドル以上を運用する3,500人の投資家が集結した。欧州の気候テック投資家パネルでは、市場の再調整について議論された。投資額は2021年の110億ユーロから2024年に88億ユーロへ減少したが、これは「ツーリスト資本」の撤退と位置づけられる。焦点はグリーンプレミアムから競争力のある価格設定へ移行し、エネルギー安全保障や主権が新たな投資判断基準となっている。AIは気候技術の重要なイネーブラーだが、データセンターのエネルギー需要も課題。中国は規模と実行スピードで優位に立ち、ヨーロッパは強いIPを持つものの実行力に課題がある。ヨーロッパは米国の2倍の気候技術スタートアップを生み出すが、出口市場が未成熟。資本効率性、多様なチーム、そして「実行が全て」という考え方が成功の鍵として強調された。

  • インフレ抑制法時代の終焉で気候テック業界は転換期を迎えています。トランプ政権下でDOEは清浄エネルギー支援を削減しましたが、AIデータセンターの急増する電力需要が新たな機会を生み出しています。ガートナーは2027年までにAIデータセンターの40%が電力制約に直面し、国際エネルギー機関は2030年までに米国のデータセンター電力使用量が2倍になると予測しています。DOEは化石燃料、地熱、原子力を優先する方針に転換し、重要鉱物に75億ドル、リチウム・ニッケル・レアアース等に10億ドルを投資します。さらにアイダホ国立研究所など4つの連邦施設をAIデータセンターとエネルギーインフラの共同立地先に指定しました。一方、民間投資も活発で、2025年上半期の気候テック投資は153億ドルと前年比35%増を記録しています。気候テック企業は、補助金依存から脱却し、24時間電力供給、グリッド信頼性、サプライチェーン強化に焦点を当て、「気候企業」ではなく「インフラ企業」として国家競争力の要に再定義される機会を得ています。

  • ナイジェリアのオギジョで、米国の自動車産業向けに鉛をリサイクルする工場が深刻な健康被害を引き起こしています。住民の70%が有害レベルの鉛に汚染され、全労働者が中毒状態にあり、子どもの半数以上が脳障害のリスクに直面しています。土壌の鉛濃度は米国基準の186倍に達し、2万人以上が影響を受けています。米国が国内規制を強化した結果、自動車メーカーは規制の緩い国々に生産を移転し、健康リスクを転嫁しました。True Metalsなどの工場がフォード、GM、テスラ向けに供給しています。監査は形骸化し、責任の所在が不明確です。政府は工場閉鎖を命じましたが、数日後に再開を許可しました。日本企業も含むグローバルサプライチェーンの透明性とESG責任が問われる事例です。

♻️ 「クリーン」技術が引き起こす健康被害――米自動車バッテリー鉛リサイクル、調査で深刻な汚染判明 [12/2 The Daily / The New York Times]

  • 東南アジアは2025年に異常な洪水に見舞われ、インドネシア、スリランカ、タイなどで1,400人以上が死亡、1,000人以上が行方不明となっています。気候科学者は、これが気候危機による新常態であると警告しています。アジアは世界平均の約2倍の速さで温暖化しており、海水温上昇により嵐がより強力で湿潤になっています。森林伐採や無計画な開発が被害を悪化させており、ベトナムは30億ドル以上、タイは数億ドルの経済損失を計上しました。COP30では2035年までに年間1.3兆ドルの気候資金が約束されましたが、発展途上国の要求には遠く及ばず、実際の資金提供も不透明です。

  • 気候変動による海面上昇で「世界で最初に沈む国」と言われる南太平洋の島国ツバル。2100年までに国土の95%が水没する可能性が指摘される中、今年、ツバル人がオーストラリアに永住できる新制度が始まりました。抽選で選ばれた住民が移住を開始していますが、受け入れ国では反移民感情が高まっており、移住者は複雑な心境に置かれています。国の未来への不安と新天地での生活への期待が交錯する中、ある一家が移住を決断した背景と思いを追った20分のドキュメンタリー動画です。

  • 朝日新聞と一橋大学の全国調査で、再生可能エネルギーを明文化された方針で推進する自治体が74%と過去最高となったことが分かりました。政府の2020年カーボンニュートラル宣言が背景にあります。一方で、51%の自治体がトラブルを経験または懸念しており、特にメガソーラーでの景観問題や土砂災害が多発しています。課題として、ノウハウ不足や資金難に加え、住民トラブルへの対応が挙げられています。自治体は国に対して、トラブル対応の相談窓口充実や地産地消を優遇する制度、専門人材の育成を求めています。

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📝note / 日経COMEMOに掲載された記事

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  • 先日来ご案内していたCIC Tokyo環境エネルギーイノベーションコミュニティ主催のイベント、LEEP SUMMIT 2025は12/3に無事開催されました。専門家、研究者、政策担当者、スタートアップ、投資家、事業会社の方など、多様な方が参加され、とても刺激的でひとときでした。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。Xのハッシュタグ #LEEPSUMMIT から当日の様子も少しご覧いただけます🥰

  • 以下のオンラインシンポジウムも収録された動画が掲載され、簡単な登録手続きを経て視聴いただけます。よろしければぜひご視聴ください👉反ESG・バックラッシュの潮流を超えて――「英国クリーンテック×日本のものづくり」で切り拓く脱炭素イノベーションの未来 [株式会社ブレーンセンター]

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  • ここまでお読みいただきありがとうございました! 今回は以上となります。もしニュースレターが有益と感じられたら、LinkedInで「いいね」や「シェア」をお願いします。みなさんのネットワークの中で、気候変動に関する情報を必要としている方に届くきっかけになれば幸いです。

  • 気候変動、脱炭素、気候テック関連のリサーチ等にも力を入れています。海外の業界動向調査やコンサルティング等、お仕事のご相談・ご依頼がありましたら、どうぞお気軽にご連絡下さい。

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では、よい週末をお過ごしください🙂🙋

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