COP30『実装時代』が直面する試金石 政治の分断、地熱1兆ドル、ピーク・トランプの兆し
こんにちは。新規登録の皆様、ありがとうございます。気候変動・脱炭素・Climate Tech関連の週間ニュースレターを配信している市川裕康です。「Climate Curation」は2022年4月の創刊以来、theLetterで730名以上、Linkedinニュースレターでは1,120名を超える方にご購読いただいております。心より感謝申し上げます。毎週直近の1週間の間に気になった記事やコンテンツをダイジェストでお届けしています。
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🇯🇵Climate Curation vol. 185 音声概要 [4:49 min.]
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🇺🇲Climate Curation vol. 185 audio summary in English [5:37 min.]
*免責事項:要約、翻訳、編集の際にChatGPT、Claude Haiku 4.5 などの生成AIツールを使用しています🙂
*「Climate Curation」では英語圏の記事を中心にピックアップしています。日本における気候変動・脱炭素関連のニュースは毎週水曜日に配信しているJapan Climate Curationで英語で報じられているニュースを中心にまとめています。以下の【Japan Climate Curation #178】をご覧ください。
原発戦略と脱炭素目標 政策転換進むも、国内では「環境疲れ」が加速[11/12 Japan Climate Curation #178]
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🎧 - 🇯🇵日本語での音声概要 :Japan Climate Curation vol. 178 [9:07 min.]
【⭐📰👀今週気になったニュース・トピックス】
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【1】🌍 COP30、約束から行動へ 化石燃料削減に88ヵ国結集 [11/21 Heatmap News]
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COP30はブラジルのベレンで開催され、国連気候会議が初めて「実装COP」として具体的な行動への転換を目指す歴史的な転機となりました。従来の広範な約束と宣言から、実効性重視の姿勢へと明確に転換し、重要鉱物採取の社会的・環境的リスク対応が初めて本格的に議論されてグローバル・サウスの利益を守る仕組み作りが始まります。化石燃料からの移行ロードマップには88ヵ国が支持を表明し、先進国と途上国が協調する新たなコンセンサスが形成されつつあります。同時に、パリ協定の1.5℃目標超過を公式に認める一方で、超過の「期間と程度を限定する」という新概念も導入され、カーボン除去の本格的な議論の必要性が認識されました。ただし気候資金問題は依然として主要な障害です。
【2】🌍 脱化石燃料の交渉また激化 「順調な滑り出し」のCOP30も延長 [11/22 朝日新聞]
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ブラジルでのCOP30は「順調な滑り出し」と評されたものの、会期内の合意に至りませんでした。昨年のCOP29では対策が足踏み状態だったため、今回の脱化石燃料工程表づくりが注目されていました。80カ国以上が支持する一方で、サウジアラビアやロシア、インドなど産油国・消費国が削除を圧力。BRICS諸国の「化石燃料の継続的役割」との立場が影響を与えています。グテーレス事務総長が直接介入し合意を促進する中、交渉継続中です。
【3】🌍 米気候政策転換で130万人死亡リスク 貧困国への打撃が深刻化 [11/19 The Guardian]
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トランプ政権の化石燃料拡大政策と排出削減努力の廃止により、今後10年間の追加的な温室効果ガス排出は2035年以降80年間で約130万人の気候関連死をもたらすと推定されています。特に懸念すべきは、その大半がアジア地域を含む最貧国で発生することです。パキスタンは世界人口の3%に過ぎないにもかかわらず気温関連死の6~7%を占め、インドも世界最多の死者数が見込まれています。エアコンなどの適応インフラに乏しいこれら南アジア諸国が、自らの責任でない排出に最大の被害を受ける深刻な不公正が存在します。プロパブリカとガーディアン紙による本分析は気候経済学的手法に基づき厳密に定量化されており、パリ協定再離脱やクリーンエネルギー優遇措置廃止といった政策転換がもたらす具体的で深刻な人的コストを科学的に可視化します。世界規模での気候変動対策の重要性と緊急性を政策決定者に強く示唆する説得力のある証拠として機能しています。
【4】⚡ 地熱の時代がついに到来 - 革新技術で核超える可能性 [11/18 The Economist]
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Fervoなどが開発した革新的地熱技術が業界史上最大の500MWの商用契約をシェルと締結し、クリーンエネルギー産業の急速な拡大局面を迎えています。強化地熱システム(EGS※フラッキング技術を応用して岩盤に人工亀裂を作製)やクローズドループシステム(CLS※フラッキングを使わず環流パイプで地熱を抽出)といった複数の技術アプローチが並行して開発され、従来の立地条件に依存せず、より深い地層から熱を効率的に抽出できるようになりました。さらにQuaiseやMazamaなどが超臨界水技術(スーパーホット)を開発し、8~20km深度での革新的エネルギー産出を実現しています。Googleなど大手テック企業による支援で2035年までに全世界で1兆ドルの投資が見込まれ、研究機関は2050年までに現在の米国核電力の3倍の出力を達成できると予測しており、24時間稼働可能なクリーンエネルギー源としてAIデータセンターの電力需要に完全に適合するとされています。
【5】🌏 エネルギー政策前進 最大の柏崎刈羽原発再稼働へ、新潟知事が容認 [11/21 日本経済新聞]
新潟県の花角知事が21日、福島原発事故以来止まっていた東京電力柏崎刈羽原子力発電所(日本最大規模)の再稼働を容認すると表明しました。政府が脱炭素と電力供給安定化の観点から極めて重要と位置付け、支援を打ち出してきました。知事は安全性を確認する一方、避難計画の実効性確保や企業統治強化を条件に挙げました。2025年度内の6号機営業運転化を見込み、東電の経営改善(年1000億円程度の利益改善効果)と首都圏の安定供給に繋がります。12月の県議会採決で承認されれば年内に地元同意完了の可能性があります。
【6】🌏 気候テックのグローバル潮流が加速 最新レポートで世界の投資・政策・事例を分析 [11/11 CTVC by Sightline Climate]
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気候テックは米国中心の構図から大きく転換し、欧州・インド・中東(MENA)・ラテンアメリカへと明確に重心が移りつつあります。米国では連邦資金が国防・戦略資源に回り始める一方、欧州はVC投資規模で米国に肉薄し、CBAMとEU ETSを梃子に重工業の脱炭素プロジェクトが急拡大しています。インドでは安価な太陽光と国家水素ミッションが成長を牽引し、IPO件数は米欧を上回る勢い。ラテンアメリカも豊富なバイオマス資源と低コスト電力を背景に、グリーン水素・アンモニア・SAFの有望な輸出拠点へと台頭します。MENA諸国は国家系ファンドを核に、水素、原子力、巨大再エネ複合プロジェクトを急速に展開し「最速の実装地域」となりつつあります。これら新興地域は、資源優位性・政策の明快さ・供給網構築力を武器に、今後10年の気候テック競争における主導権を巡る主要プレイヤーとして浮上しています。結果として、競争軸は「米欧中心の技術開発」から、「地域のレディネス(政策・需要・インフラ・供給網)」へと移行し、投資家は国境に縛られないグローバル配置が不可欠になっています。
【7】🌍 「ピーク・トランプを過ぎたかもしれない」 アル・ゴア元米副大統領が気候対策の転換点を語る [11/18 Bloomberg Green]
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トランプ政権の国際秩序攻撃にもかかわらず、気候変動対策は不可逆的な転換にあると、元米副大統領アル・ゴアがCOP30で開催されたTED Countdownイベントで語っています。再生可能エネルギーやバッテリーの継続的な価格低下により、米国単独の政策転換では気候行動の「大きな流れ」は止められないと指摘しています。ゴア氏が「ピーク・トランプを過ぎた可能性がある」と述べる根拠は、最近の選挙結果で反トランプ派が予想外の勝利を収めたこと、共和党議員による造反増加、最高裁がトランプの権限制限に動きつつあること、そしてワシントンにレームダック感が広がっていることにあります(ただし本人も「確信ではなく兆し」と留保しています)。中国のクリーンテック台頭やAI電力需要増、右派ポピュリズム拡大といった複合課題がある中でも、世界の脱炭素化は後退しないとの見方を示しています。
【8】🌍 COP30気候会議でAI論争 気候対策か環境負荷か [11/18 AP]
ブラジルのCOP30気候変動交渉では、AIが気候対策における両刃の剣として議論されています。テック企業や一部の国は、電力網の効率化や天候予測、森林監視など気候変動対策へのAIの活用を推進しています。一方、環境団体はデータセンターの電力・水消費による環境負荷を懸念し、規制なしのAI拡大は気候目標達成を困難にしかねないと警告しています。2024年のデータセンター消費電力は世界全体の1.5%に達し、年12%の成長率で増加している状況から、AIの環境規制が重要な課題となっています。
【9】🌍 COP30開催地ブラジルで電力格差が浮き彫りに――アマゾン農民、今年やっと電力獲得 [The New York Times]
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世界がクリーンエネルギーに注力する中、数百万人が依然として電力アクセスを欠いています。COP30開催地ブラジルのベレンの対岸では、パケタ島やジュタバ島の住民が今年やっと信頼できる電力を獲得しました。アマゾン地域で100万人が完全に無電力、200万人がディーゼル発電に頼る状況が続いています。政府のLight for Allプログラムが太陽電池システムを月5ドルで導入。このプログラムは2000年代の開始以来、1700万人以上に電力を提供してきました。電力獲得により、冷蔵庫での食料保存やスマートフォン充電が可能になり、住民の経済参加と生活向上が実現します。電力は開発の必須条件であり、クリーン開発と貧困地域の電化のバランスが気候対策の重要課題となっています。
【10】⚡ 政治家・企業が学ぶべき「クリーンエネルギーの語り方」- 生活費危機下でも気候メッセージは有効、調査が示唆 [11/13 FastCompany]
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クリーンエネルギーは実は化石燃料より廉価である重要な事実がありますが、この認識は現在38%に過ぎません。気候変動問題の解決に向けてマーケティング・広告の専門家たちが集結した非営利団体Potential Energy Coalitionの調査によると、適切で効果的なメッセージングによってこの認識は27ポイント上昇するとのこと。トランプ当選後、多くの企業や政治家が気候変動への言及を減らしていますが、調査ではこの戦略は有効でないことが示されています。むしろ気候メッセージは引き続き大きな説得力を持っています。成功の鍵は、クリーンエネルギーを「新しい技術」ではなく「実績のある」「地域に根ざした」「無限」の資源として戦略的に位置づけることです。50年以上の展開実績と過去25年での急速な価格低下を強調することで、信頼性と廉価性の両立が実現します。また、新規インフラ構築の必然性を理解させることも重要です。人々が「何かを建設する必要がある」という前提を受け入れれば、再生可能か化石燃料かの選択を客観的に検討するようになります。
イベントのご案内
【1】12/1 反ESG・バックラッシュの潮流を超えて――「英国クリーンテック×日本のものづくり」で切り拓く脱炭素イノベーションの未来 [株式会社ブレーンセンター]
*セッション2『『英国のクリーンテック 』×『日本のモノづくり力』の可能性~脱炭素社会の実現を見据えたイノベーション&パートナーシップ~』にてファシリテーターとして参加の機会を頂きました。ぜひご視聴ください🙂
*事前にオンライン登録いただくことで12/1以降オンラインで視聴していただくことが可能になります。 詳細・登録はこちら
【2】12/3 開催:LEEP SUMMIT 2025 環境エネルギー "共創と実践" 〜国と都市を越えて〜 事務局スタッフとしてご一緒している環境エネルギーイノベーションコミュニティの年末イベントであるLEEP SUMMIT、思えば過去4回開催のうち初回含め3回参加、今回5回目の参加です。多様な分野からの登壇者、参加者から毎回たくさんの刺激と学びを得ることができます。ご都合合う方は是非いらしてください:)
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気候変動、脱炭素、気候テック関連のリサーチ等にも力を入れています。海外の業界動向調査やコンサルティング等、お仕事のご相談・ご依頼がありましたら、どうぞお気軽にご連絡下さい。
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市川裕康 株式会社ソーシャルカンパニー | www.socialcompany.org
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