気候変動の現在地2025:政策・技術・投資 - グローバルトレンドと日本の針路
【1】エネルギー基本計画決定 “再エネ最大電源に 原子力も活用”
【5】中国の再生可能エネルギー、GDP比10%に
【7】「気候」研究への助成停止、トランプ政権に批判

こんにちは。新規登録の皆様、ありがとうございます。気候変動・脱炭素・Climate Tech関連の週間ニュースレターを配信している市川裕康です。「Climate Curation」は2022年4月の創刊以来、theLetterで770名以上、Linkedinニュースレターでは1,080名を超える方にご購読いただいております。心より感謝申し上げます。
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先週の英語版ニュースレター「Japan Climate Curation vol. 141」の概要
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日本は2040年に向けて産業・エネルギー構造の大胆な転換を計画している。温室効果ガスの排出量を73%削減する目標を掲げ、発電に占める再生可能エネルギーの割合を50%に、原子力発電を20%に引き上げることを目指す。政府は超薄型太陽電池技術に約2,200億円を投資し、再生可能エネルギー分野での中国の優位性に挑戦する姿勢を示している。一方、日本企業はこのグリーン転換に対応を進めているものの、自動車分野では中国のEVメーカーとの激しい競争に直面するなど課題も残る。2025年5月には日本のディープテック・イノベーションへの取り組みが紹介されるテクニウム・グローバル会議が開催予定。
【⭐📰👀今週気になったニュース・トピックス】
【1】エネルギー基本計画決定 “再エネ最大電源に 原子力も活用” [2/18 NHK]
2月18日、政府は重要な3つの政策文書を閣議決定しました。「第7次エネルギー基本計画」「地球温暖化対策計画」「GX2040ビジョン」です。今後の日本のエネルギー政策と気候変動対策の基本方針を示すものであり、具体的な政策立案や投資判断の指針として機能することが期待されます。エネルギー分野での技術革新や産業構造の転換に大きな影響を与えると考えられ、その実施状況と成果を注視していく必要がありそうです。
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第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました [2/18 経済産業省]
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地球温暖化対策計画の閣議決定及び日本の次期NDC(温室効果ガス削減目標)の国連気候変動枠組条約事務局への提出について [2/18 環境省]
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「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」が閣議決定されました[2/18 経済産業省]
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政府は、2040年度に向けた新たなエネルギー基本計画を閣議決定しました。この計画では、再生可能エネルギーを4~5割程度まで引き上げて最大の電源と位置づける一方、原子力発電も2割程度まで拡大し最大限活用する方針を示しています。
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特に洋上風力発電を再生可能エネルギー拡大の柱として位置づけていますが、建設コストの上昇という課題に直面しています。資材価格の高騰により、三菱商事や中部電力などが損失を計上し、一部の建設計画が見直しを迫られています。
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原子力発電については、現在8.5%の発電割合を2040年度までに2割程度に引き上げる目標を掲げていますが、33基ある原発のうち稼働しているのは14基にとどまっています。福島第一原発の廃炉や核廃棄物処理などの課題も残されています。
【2】新エネ基の正体、火力の5〜9割をCCSと水素アンモニアに [2/17 日経エネルギーNext]
"火力発電の5〜9割をCO2回収付き火力(CCS)または水素・アンモニア火力に転換するという方針転換"と指摘されている部分は個人的にも十分認識できてなかったこともあり、とても参考になりました。
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第7次エネルギー基本計画は、2040年までに温室効果ガス73%削減を目指す中で、再生可能エネルギーを4-5割まで拡大する一方、火力発電も3-4割維持するという計画を示している。しかし、この目標を達成するために、火力発電の5-9割をCCS(二酸化炭素回収・貯留)や水素・アンモニア発電に転換する必要がある。これは実質的に、まだ商用化されていない技術に国のエネルギー政策の重要な部分を依存することを意味する。しかし、この重要な変更点は明確に示されておらず、また計画の審議過程も十分とは言えない状況である。
【3】【温暖化対策】世界193カ国の排出量と目標を比較 ▼過去の排出実績から将来目標まで検索可能 [2/19 Financial Times]
フィナンシャル・タイムズが作成した"気候目標を比較できるダッシュボード"は無料で閲覧可能で、いろいろな国の気候変動目標や実績を閲覧できるツールです。以下は日本のものです。Co2e排出量は世界で7番目、とのことです。トップ5は以下の画像に記載されていますが6位は....インドネシアとのことです。
*CO2排出量ランキングは掲載タイミングや媒体などで異なっているようです。JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センターや外務省掲載のデータでは2021年のデータに基づき日本は5位と掲載され、グーグル検索などをするとこちらのデータがトップに表示されます:)。
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フィナンシャル・タイムズは193カ国の歴史的排出量と将来の気候目標を比較できるダッシュボードを公開した。2025年2月の国別目標(NDCs)更新期限までに提出した国は少数にとどまり、世界は今世紀末までに3℃以上の「破滅的な」温暖化に向かっている。
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中国は再生可能エネルギーの急増にもかかわらず、石炭への依存により世界最大の排出国である一方、2024年の排出量増加は1%未満に抑制された。アメリカではトランプ政権の再登場により、2035年までに2005年比61-66%削減という目標が危ぶまれている。また、各国の目標設定は基準年の選択や経済成長を考慮したカーボン強度の使用など、複雑な要素を含んでいる。

image credit: Financial Times
【4】2/26開催:ウェビナー「エネルギー基本計画・地球温暖化対策計画・GX2040ビジョンを読み解く」[2/18 Climate Integrate ]
独立系シンクタンクのClimate Integrateによる「第7次エネルギー基本計画」、「地球温暖化対策計画」、「GX2040ビジョン」の決定事項について、その決定プロセスや概要を解説するウェビナーを開催するとのことです。昨年4月に同団体が公開されたレポート、「日本の政策決定プロセス:エネルギー基本計画の事例の検証」は様々な機会で参照され、気候変動対策の政策決定に関する解像度を高める優れた資料と感じました。今回の解説セミナーも参加してみたいと思います。
【日程・参加方法】
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日時:2025年2月26日(水曜日)13:00~14:30
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開催方式: Zoom オンライン
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参加登録:Zoomフォーム(要事前登録)/無料
【5】中国の再生可能エネルギー、GDP比10%に 分析 / Clean energy contributed 10% to China’s GDP in 2024, analysis shows - Study found electric vehicles and batteries added largest amount to country’s clean-energy economy [2/19 The Guardian]
中国のクリーンエネルギー技術がGDPの1割を超えているというレポートが公開され、ガーディアン紙がグラフとともに記事を掲載しています。印象的だったのはレポートを作成したCarbon Briefのサイモン・エバンズ氏による以下のコメントです。
「彼ら(中国)は利他的な理由からではなく、単に経済的に理にかなっていると考えているからやっているのです。彼らはこうした産業の育成に多額の投資をしてきました。トランプ氏が気候変動を信じていないと言ったからといって、彼らが後戻りすることはありません。」
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2024年、中国のクリーンエネルギー部門はGDPの10%を占め、13.6兆元(1.9兆ドル)という記録的な規模に達し、不動産販売を上回った。エネルギー・クリーンエア研究センター(Crea)の分析によると、電気自動車とバッテリーが全体の39%を占め、最大の貢献部門となった。
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この成長は中国の戦略的な取り組みの結果であり、石油輸入依存度の低減とエネルギー安全保障の強化を目指している。専門家は、米国の政権交代にかかわらず、中国は経済的合理性と既存の投資を理由に、クリーンエネルギーへの取り組みを継続する見通しを示している。

image credit: The Guardian

image credit: The Guardian

image credit: The Guardian
Analysis: Clean energy contributed a record 10% of China’s GDP in 2024 [2/19 Carbon Brief] Mapifyによる要約
【6】「まずいレベルにある」気候変動問題に、スポーツ界はどう関われるのか。五郎丸歩が、専門家・平田仁子に聞く [2/21 NumberWeb]
気候変動への関心を高める新たな動きが広がっています。こちらは元ラグビー日本代表の五郎丸歩さんとClimate Integrateの平田仁子さんによる対談記事です。昨年から、様々な分野の専門家たちが気候変動の影響について警鐘を鳴らしています。例えば:
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スポーツ界(サッカー、ウィンタースポーツ)
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漁業従事者
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天気予報士
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チョコレート・コーヒー生産者
これらの声は、私たちの日常生活に直結する現場からの貴重な証言となっています。気候変動という大きなテーマに対する関心を喚起する上で、こうした様々な立場のリーダーによる発信は非常に重要な役割を果たしています。私自身も、これらの声がきっかけとなって気候変動への理解を深めることができました。
【7】「気候」研究への助成停止、トランプ政権に批判 - ▼国内外の研究者から反発 公衆衛生への影響も警戒[2/21 The Guardian]
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トランプ政権は、「気候」という用語を含む科学研究への助成金を撤回または制限する新たな方針を実施している。研究者らは、助成金を維持するために「気候変動」への言及を削除することを余儀なくされ、ハワイ大学の災害対策研修センターやフィンランドのヘルシンキ大学のフルブライト・プログラムなども影響を受けている。また、国立科学財団(NSF)では、約10%の人員削減と共に、「女性」「偏見」「平等」などの用語を含む研究プロジェクトの見直しが進められている。専門家らは、この政策が科学研究の進展を妨げ、若手研究者の参入を抑制する可能性を懸念している。
【8】投資家スタイヤー氏「気候テックに投資好機」 市場低迷でも強気姿勢 [Financial Times🔏]
2020年の大統領選挙に立候補した経歴もあるトム・ステイヤー氏は10億ドル規模の気候ベンチャー・成長ファンドを運営するガルバナイズ・クライメート・ソリューション代表。元米国務長官で気候変動特使のジョン・ケリー氏を昨年共同議長(Co Exective Char)に迎えたことも含め、気候テックに継続して取り組むことを主張しています。
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気候テック市場は2024年に投資額が300億ドルまで減少し、2021年のピーク時(480億ドル)から大幅に後退している。しかし、投資家のTom Steyerは、この市場の低迷を投資機会と捉えている。彼が共同設立したGalvanize Climate Solutionsは、政府の支援に依存しない事業戦略を採用し、企業の炭素排出追跡ソフトウェアのWatershedやセメント・コンクリート製造の排出削減を支援するAlcemyなどに投資している。トランプ政権の返り咲きにより市場センチメントは悪化しているものの、Steyerは政府支援に依存しない持続可能なビジネスモデルに焦点を当てた投資を継続する方針を示している。
【9】2025年1月、日本のクライメートテックの現在地 環境経済学から見るクライメートアクション vol.6 / [2/21 xTECH]
横尾英史さん(一橋大学大学院経済学研究科准教授)のコラム。昨年からスウェーデン・ヨーテボリ大学経済学部に滞在される中、xTECHに定期的にクライメートテックに関してのコラムを執筆されています。今回のコラムでは過去4年ほどの期間で日本国内で「気候テック」を巡る機運やビジネス、政策がどのように変容してきたかを丁寧にレポートされています。本ニュースレター「Climate Curation」のことも言及いただき光栄です。日本のクライメートテック・エコシステムに対する今後の期待感は私も共感するところです🙂。
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"2021年以降、日本のクライメートテック業界は着実な成長を遂げてきた。VCの投資領域として「クライメート」が定着し、専門メディアやイベントが増加。政府もGXスタートアップ政策など、気候変動対策とスタートアップ支援を融合させた政策を展開している。2025年、トランプ政権下でアメリカのクライメートテック投資が減速する中、日本は逆に相対的優位性を持つ可能性がある。政策の一貫性と投資予見性の高さが、日本のクライメートテック・エコシステムの強みとなっており、継続的な成長が期待される。"
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ここまでお読みいただきありがとうございました! 今回は以上となります。もしニュースレターが有益と感じられたら、LinkedInで「いいね」や「シェア」をお願いします。みなさんのネットワークの中で、気候変動に関する情報を必要としている方に届くきっかけになれば幸いです。
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*気候変動、脱炭素、気候テック関連のリサーチ等にも力を入れています。海外の業界動向調査やコンサルティング等、お仕事のご相談・ご依頼がありましたら、どうぞお気軽にご連絡下さい。
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市川裕康 株式会社ソーシャルカンパニー | www.socialcompany.org
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