SusHi Tech Tokyo 2025: グローバル化する日本のスタートアップシーン

今回は実験的に日曜配信とさせていただきました。音声概要コンテンツも日英で視聴可能です。ぜひご活用ください🎧🙂
市川裕康 2025.05.11
誰でも

こんにちは。新規登録の皆様、ありがとうございます。気候変動・脱炭素・Climate Tech関連の週間ニュースレターを配信している市川裕康です。「Climate Curation」は2022年4月の創刊以来、theLetterで800名以上、Linkedinニュースレターでは1,100名を超える方にご購読いただいております。心より感謝申し上げます。毎週直近の1週間の間に気になった記事やコンテンツをダイジェストでお届けしています。

【Climate Curation配信プラットフォーム】

*英語版は毎週水曜日配信です。よろしければ併せてご覧ください📬

先週の英語版ニュースレター「Japan Climate Curation vol. 151」の概要

  • 中国は水素技術で日本を凌駕し、特許数で上回り、燃料コストは日本の3分の1にまで低下しています。トヨタは中国が世界の水素自動車販売をリードする中、時間が限られていると警告しています。三菱重工は2030年代に向けて老朽化した原子炉を先進モデルに置き換えるため、サプライヤーとの連携を進めています。政府の意欲的な目標にもかかわらず、日本の洋上風力発電の取り組みは漁業コミュニティからの反対に直面しています。国際的には、日本はタイの産業脱炭素化支援に合意し、NYKはClimeworksとカーボン除去ソリューションでパートナーシップを結んでいます。一方で、日本は機会があるにもかかわらず米国の研究者を惹きつけることに苦戦し、QatarEnergyとは長期LNG供給契約の交渉を進めています。

*免責事項:要約、翻訳、編集の際にClaude Sonet 3.7 などの生成AIツールを使用しています🙂

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🎧Audio Version is available powered by NotebookLM

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【⭐📰👀今週気になったニュース・トピックス】

【1】SusHi Tech Tokyo 2025 (5/8&9 ビジネス・デイ)参加振り返り・レポート

スシテック東京2025(ビジネスデイ)が5月8日から9日まで東京ビッグサイトで開催され、国内外から多くのスタートアップや大企業、そして投資家などが集いました。今年で3回目となるこのイベント(初回の2023年は「シティテック東京」として開催)では、出展スタートアップが前年比4割増の617社に達し、そのうち約6割が海外からの参加とのことでした(過去開催時のレポートはこちら→2023年 & 2024年) 。

スシテック東京2025の様子

スシテック東京2025の様子

参加して特に印象的だったのは、海外スタートアップ企業や参加者の存在感の大きさです。出展企業の6割を占める海外企業の多さを反映し、ピッチイベントやパネルディスカッションのほとんど(推測値で約7〜8割程度)が英語で行われ、全てに同時通訳が提供されていました。これにより、昨年までと比べて会場で出会う国内の業界関係者や知人の数は正直減った印象があります。ただ、グローバルな展開を目指すスタートアップにとって、また日本にいながら海外の最先端の動向を知りたい参加者にとっては、とても貴重な機会になることと思います。

この状況を見て、日本のスタートアップや企業が英語で情報発信することの必要性と可能性を改めて感じました。私自身も3年前に日本の気候変動対策や気候テックスタートアップについての英語ニュースレターJapan Climate Curationを始めた経験から、海外の投資家や企業が日本の優れた技術や取り組みに関心を持っていることを実感しています。特に最近のトランプ政権発足後は米国以外の欧州、アジアの国々から日本の技術力や大企業の持つリソースへの期待が高まっているように感じます。

今回のイベントでは、AIや量子コンピュータ、フードテックが主要注目テーマとなり、多くの国々が自国のスタートアップを紹介するブースを出展していました。一方で気候テックに関するセッションは限定的という印象を受けました。ただ、脱炭素やサーキュラーエコノミー、エネルギー安全保障などのテーマのセッションも開催され、特に「エネルギー安全保障×脱炭素の両立」をテーマにしたセッションでは、欧州でのDefense Tech(防衛技術)への注目の高まりと気候テックの存在感の低下という動向を知ることができました。その他「レジリエンス」「グローバルサプライチェーン」「エネルギー安全保障」「ディープテック」のようなキーワードも気候テックの「リブランディング」として広がりつつある様子が感じられました。

来年の開催は2026年4月27日〜29日に予定されていて、今後もグローバルなスタートアップエコシステムの発展において、東京の役割や存在感が高まっていきそうです。来年もぜひ参加してみたいと思います🤞🙂🌏。

🙋スシテック東京の「エネルギー安全保障×脱炭素の両立 ~不確実性の時代におけるClimate Tech・Defense Techの役割~ Powered by Nordic Ninja VC」と題したセッションで語られていたテーマはこちら。欧州における「Climate Tech からDefence Techへ」のトレンド変化が日本にどのように影響するのか、とても気になります。

  • 【概要】地政学的緊張の高まりを背景に、サステナビリティ投資家が防衛関連株に注目しています。従来は相容れないと考えられていた「持続可能性」と「防衛産業」だが、昨今の国際環境の急速な変化により、両者の関係性が再考されています。レアアース採掘企業など、かつては再生可能エネルギーや電気自動車向けとしてアピールしていた企業が、F35戦闘機やミサイル技術に不可欠な素材の供給者として防衛部門でも重要視されるようになりました。欧州では防衛関連株が急騰し、防衛株を含むESGファンドのパフォーマンスが向上。自国内でのエネルギー生産や鉱物資源確保が国家安全保障の観点から重要視され、気候変動対策と安全保障が融合する新たな投資潮流が生まれています。

【3】🌡️ 地球温暖化、12カ月間で1.58℃に達する [5/8 Financial Times]

  • 【概要】コペルニクス欧州地球観測サービスによると、過去22ヶ月のうち21ヶ月間、世界の平均気温が産業革命前と比較して1.5℃の閾値を超過しました。4月は1.51℃高い14.96℃を記録し、過去12ヶ月の平均は1.58℃上昇。パリ協定の目標達成が「不可避的に破られる」と専門家は警告し、国連気候変動責任者は現在の軌道では3℃上昇すると指摘。メタン排出量も2024年に過去最高レベルに達しました。

  • 【概要】国際調査によると、世界の89%が温暖化対策の強化を望んでいます。しかし、人々は他者が対策に前向きでないと過小評価する「認識のギャップ」があり、個人の行動を抑制している可能性があります。日本でも85.7%が政府に対策を求めるが、「生活の質を脅かす」と考える人が51.77%で、「負担感」と「無力感」が行動の障壁となっています。専門家は、個人の小さな取り組みよりも社会づくりに焦点を当てるべきだと指摘。「断熱改修ワークショップ」や「気候市民会議」など、成果を実感できる取り組みが注目されています。この「静かな多数派」が声を上げれば、政治的な変化につながる可能性があります。

  • 【概要】26歳の太陽光発電企業経営者池田将太氏(ハチドリ電力)が、日本の気候政策を公に批判し、より野心的な取り組みを求めています。政府は2035年までに2013年比で温室効果ガス排出量を60%削減する計画を承認したが、池田氏は少なくとも75%の削減を訴えました。専門家や活動家は、この目標は地球温暖化を1.5℃に抑える国際目標に合致せず不十分と指摘。さらに政策協議プロセスの透明性や公平性にも懸念が示されています。気候政策の諮問機関は主に50〜70代の男性で構成され、産業界関係者が多いという問題も指摘されています。

  • 【概要】「営農型太陽光発電」に大企業の参入が増加しています。クボタは栃木・茨城で施設を拡大中で、約1500世帯分の電力を自社工場に供給予定。地上3mの高さにパネルを設置し、柱間を5mにすることで日照確保と農機の操作性を実現。出光興産は太陽の動きに応じてパネルの傾きを自動調整する仕組みを導入し、コメ作りとの両立を図っています。農地活用と再生可能エネルギー拡大の両立を目指すが、農地転用期間の制限や不正事案への懸念から普及が伸び悩んでおり、行政の支援が求められています。

  • 【概要】炭素除去クレジット市場は年間2,500億ドル(約36兆円)規模の可能性を秘めているが、現状では需要が非常に限られています。IPCCによれば2050年までに年間100億トンの炭素除去が必要だが、これまで販売されたのはわずか1.75億トン(必要量の2%未満)。市場は主にMicrosoft(技術的除去の76%を購入)など少数のテック企業が支配。企業は新興技術への投資リスク、約束通りの成果が出なかった場合の批判、自社の排出削減ではなく除去に資金を使うことへの反発を恐れています。また、標準化の欠如、各クレジットの価格差(森林植林は1トン80ドル、直接空気回収は1,000ドル)、検証の不足、保険の限定性など複数の課題が存在します。

Factorial
@FactorialEnergy
We’re transforming e-mobility. @nytimes featured our journey to bring solid-state batteries from the lab to the road.

Check out the full story by @JackEwingNYT, with insights on our partnership with @MercedesBenz: heyor.ca/fdmAnO

#FutureisFactorial #SolidStateBattery
A Decade-Long Search for a Battery That Can End the Gasoline Era Can a small Massachusetts start-up perfect a battery that wo heyor.ca
2025/05/10 00:48
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  • 【概要】マサチューセッツ州の小さなスタートアップ Factorial Energyが、電気自動車を革新する可能性を秘めた固体電池の開発に成功しました。中国出身のCEO黄思宇氏と夫のAlex Yu氏が10年以上取り組んできたこの技術は、安全性向上、充電時間短縮、航続距離延長を実現します。2025年初め、メルセデス・ベンツはFactorialの電池を搭載した車両の走行テストに成功。量産における「歩留まり」は当初10%だったが、2024年末には85%まで向上。米欧の自動車メーカーが中国勢に対抗する武器として期待される固体電池だが、市場投入は2028年以降になる見込み。実用化されれば、EVをガソリン車より安価で便利にし、気候変動対策に貢献します。

  • 【概要】中国が水素関連の特許競争力で日本を初めて逆転し首位となりました。特に製造分野で強みを発揮し、電解槽の世界シェアは6割に達しています。習近平主席のCO2排出ピークアウト方針発表後、特許出願数は日本の2倍に増加。グリーン水素の製造コストは欧州の4分の1と圧倒的な優位性を持ち、参入企業数も日本の数社に対し100~200社と圧倒。中国の水素需要は世界の3割を占め、欧米が逆風に直面する中、脱炭素エネルギー分野での中国の存在感が一層高まっています。

  • 【概要】トヨタの水素事業責任者・山形光正氏は、中国が水素車市場で急速にリードを確立しつつあると警告し、他国の投資加速を求めています。中国では水素トラックインフラが進み、燃料コストは日本の3分の1、商用車販売数も世界最大となっています。トヨタは30年以上水素技術を開発し、2014年以降2万8千台のミライを販売。近年は商用車向けに注力し、第3世代燃料電池を発表しました。一方で米国・日本・EUの水素プロジェクトは資金不足や進展の遅れに直面。山形氏は「時間がない」と警鐘を鳴らし、トヨタは中国市場を「道場」として技術を磨き、世界展開する戦略を明かしました。

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【イベント登壇のお知らせ】

  • 『FDSF PEST Conference 2025~政治・経済・社会・テクノロジーの国際情勢を踏まえたサステナブルファイナンスの現状と展望~』(主催:一般社団法人科学と金融による未来創造イニシアティブ / 協力:Archetype Ventures)

  • 開催日時:2025 年 6 月 11 日(水)10:00-18:00(予定)

  • 詳細 : https://fdsf.jp/conference/2025

  • 申込 : https://peatix.com/event/4199050

  • 「パネルディスカッション③逆風の気候テックと求められる気候リテラシー、産業競争戦略」と題したセッションのモデレーターをさせていただきます。今週のニュースレターでも触れたように、気候テックから「レジリエンス」「防衛テック」なども含めた産業競争戦略、そして気候リテラシーなどについて、登壇者の皆様と議論を深めたいと思います。よろしければぜひご参加ください🙂

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  • ここまでお読みいただきありがとうございました! 今回は以上となります。もしニュースレターが有益と感じられたら、XなどSNSで「いいね」や「シェア」をお願いします。みなさんのネットワークの中で、気候変動に関する情報を必要としている方に届くきっかけになれば幸いです。

  • *気候変動、脱炭素、気候テック関連のリサーチ等にも力を入れています。海外の業界動向調査やコンサルティング等、お仕事のご相談・ご依頼がありましたら、どうぞお気軽にご連絡下さい。

では、よい週末をお過ごしください🙂🙋

市川裕康 株式会社ソーシャルカンパニー | www.socialcompany.org

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