排出量取引の価格に上下限、1トン4300〜1700円 / 米DAC撤退の隙を突く日本企業

今週は年末振り返り特集号にしようと思ったのですが、新しいニュースが盛りだくさんで断念しました。来週が年内最後の配信予定です。皆さんよい年末をお過ごしください。
市川裕康 2025.12.20
誰でも
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こんにちは。新規登録の皆様、ありがとうございます。気候変動・脱炭素・Climate Tech関連の週間ニュースレターを配信している市川裕康です。「Climate Curation」は2022年4月の創刊以来、theLetterで740名以上、Linkedinニュースレターでは1,120名を超える方にご購読いただいております。心より感謝申し上げます。毎週直近の1週間の間に気になった記事やコンテンツをダイジェストでお届けしています。

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*「Climate Curation」では英語圏の記事を中心にピックアップしています。日本における気候変動・脱炭素関連のニュースは毎週水曜日に配信しているJapan Climate Curationで英語で報じられているニュースを中心にまとめています。以下の【Japan Climate Curation #183】をご覧ください。

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【⭐📰👀今週気になったニュース・トピックス】

  • 💹 排出量取引の価格に上下限、1トン4300〜1700円 [12/20 日経]

  • ⚖️ 「気候変動は人権の問題」450人が国を訴える [12/18 朝日]

  • 🇯🇵 米国で逆風のDAC、日本企業が投資攻勢 [Heatmap]

  • 🛢️ カーニー加首相、化石燃料推進に転換 [12/13 FT]

  • 🔬 トランプ政権、気候変動研究拠点を解体へ [12/18 Bloomberg]

  • 🚗 EU、エンジン車禁止を緩和へ [FT]

  • 🌍 気候活動家ハラム氏の抗議戦略、左右両派に波及 [12/17 Economist]

  • 🌋 ドイツで始動、石油掘削技術を転用した新型地熱システム [12/17 Heatmap]

  • 🔋 米固体電池スタートアップFactorial、株式上場へ [12/18 NYT]

  • 🚁 空飛ぶタクシーにドローン配達——中国「クリーン技術」の現在地 [12/17 NYT]

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  • 経済産業省は2026年度から始動する排出量取引制度(GX-ETS)の基本設計を固めました。対象は年間CO2排出量10万トン以上の約300〜400社で、国内排出量の約6割をカバーします。最大の特徴は脱炭素投資を促すための価格安定化措置(上下限価格)の導入で、2026年度は上限4,300円、下限1,700円とし、以降は物価上昇率に3%を上乗せして毎年引き上げます。2026年度を測定期間とし、2027年秋に取引所を開設する予定です。注目すべきは、価格の「見える化」により企業が中長期の脱炭素投資のROI計算が可能になる点です。また下限価格は省エネJ-クレジット価格を参考に設定されており、クレジット市場の採算性を左右する指標となります。価格の暴騰・暴落を防ぐこの「サーモスタット型」設計は、EU-ETSの教訓を反映したものであり、アジア諸国がETS導入を検討する中、日本モデルが国際的な参照事例となる可能性もありそうです。

  • 排出量取引制度における上下限価格の水準(案)資料[12/19 経済産業省]

  • 第7回 産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 排出量取引制度小委員会 アーカイブ動画

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  • 日本政府の温暖化対策が不十分だとして、全国452人が12月18日、国に1人1千円の賠償を求め東京地裁に提訴した。東京大学准教授の斎藤幸平さんら著名人も原告に加わっています。原告側は、国の2040年目標(13年度比73%削減)を19年比に換算すると67%となり、IPCCが求める69%を下回るため削減義務に違反していると主張。本訴訟は、オランダやドイツ、韓国など世界で相次ぐ気候訴訟の潮流に加え、2025年7月に国際司法裁判所が示した「1.5度目標」に関する勧告的意見にも依拠しており、日本初の本格的「気候正義訴訟」となります。ビジネスへの影響として、排出削減義務の強化による規制・コスト増リスク、また「環境権」が認められれば気候リスク開示基準の変化やグローバル投資家による日本企業のガバナンス評価にも影響が及ぶ可能性がありそうです。

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  • 米国でDAC(直接空気回収)企業が政府の気候政策後退により苦戦する中、日本企業が積極投資を進めているとHeatmap Newsが報じています。JAL、三菱商事、三井物産がHeirloomに出資し、日本政策投資銀行と千代田化工も追加投資。三井住友銀行はDeep Skyと戦略提携を発表しました。日本の地質はCO2貯留に不向きですが、製造・エンジニアリング技術を活かしたビジネス機会と捉えていると伝えられています。「米国企業が撤退した今こそ日本企業にとって絶好の投資機会」との声もあり、優秀なスタートアップとの協業機会が広がっているようです。今夏には三菱商事主導で日本CDR連合が発足し、海運・化学・重工業など主要セクターから約70社が参加。工学的CDRクレジットはGX-ETSの義務化後の扱いが未確定ながら「将来的には認定される」との見方から、脱炭素困難セクターの企業が長期戦略として先行投資を進めています。国土が狭く再エネ適地も限られる日本では、化石燃料依存が続く見通しであり、排出相殺には炭素除去クレジット購入が不可欠との認識が広がっているようです。

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  • カナダのカーニー首相が化石燃料推進へと大きく政策転換し、気候変動専門家やビジネスリーダーを困惑させています。かつてイングランド銀行総裁として「気候変動は地平線の悲劇」と警鐘を鳴らし、GFANZを通じて2050年までに130兆ドルの脱炭素投資を目指す金融イニシアチブを牽引した同氏ですが、トランプ政権の関税政策への対抗として、消費者向け炭素税の廃止、日量100万バレルの原油増産契約、LNG生産倍増を打ち出した。ギルボー環境大臣やネットゼロ諮問機関の創設メンバーが抗議辞任する事態に発展。元ユニリーバCEOポールマン氏は、大規模CCSに依存する「脱炭素石油」戦略を「ネットゼロ2050の信頼性を賭けたギャンブル」と批判しています。カナダは2030年排出目標の達成が困難な状況にあります。

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  • トランプ政権は、コロラド州ボルダーにある米大気研究センター(NCAR)を解体する方針を明らかにしました。ボート行政管理予算局長がXで発表したもので、政権側は同センターが数十年前に気候変動研究へ軸足を移し、本来の使命から逸脱したと主張しています。ホワイトハウス高官はNCARを「左派的な気候活動の拠点」と評した。天気予測モデルやスーパーコンピューティング機能は別組織へ移管される見込みです。NCARは800人超の職員を抱え、年間約191億円の運営資金を受けてきました。科学者らは「科学への破壊行為」「国家安全保障上のリスク」と強く批判しています。

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  • EUは2035年の内燃機関禁止を緩和し、2021年比10%の排出継続とガソリン車・ハイブリッド販売を認める方針を発表しました。当初は業界ロビイングの勝利と見られましたが、排出オフセットにグリーン鉄鋼と持続可能燃料の使用が義務化されることが判明し、評価は一転。独自動車工業会会長は「壊滅的」と酷評し、アナリストはガソリン車が「高級時計のようなオートクチュール」になると予測しています。注目すべきは、オフセット条件としての低炭素鉄鋼の必須化により、鉄鋼脱炭素技術が自動車業界の新たなボトルネックとなる点です。柔軟性付与に厳格な条件を課す「規制緩和が価格上昇を招く」というEU流の逆説的な政策設計は、日系メーカーの欧州戦略や日本の将来の規制設計にも示唆を与えそうです。また、ドイツの法人車両95%EV化目標など企業フリートの電動化推進は、手頃なEVの中古市場形成を狙う施策であり、日本の社用車・リース業界の脱炭素化議論にも参考となりそうです。

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  • 「Extinction Rebellion(XR)」は2018年に英国で設立された気候危機対応を求める市民運動で、「非暴力的市民的不服従」を掲げ、ロンドン中心部の大規模占拠や交通封鎖で世界的注目を集めました。共同創設者のロジャー・ハラム氏は後に「Just Stop Oil」も立ち上げ、ゴッホの「ひまわり」へのトマトスープ投げつけなど過激な抗議手法を展開し、高速道路封鎖の扇動で禁固5年の判決を受けたが、「逮捕されることで運動は強くなる」という信念を貫いています。こうした活動は当初批判を浴びたものの、英エコノミスト誌は、これらが英国を世界初のG7ネットゼロ宣言国に押し上げ、北海油田の新規ライセンス禁止という政策転換をもたらしたと分析しています。注目すべきは、この「殉教者戦略」が今や右派・反移民勢力にも模倣されている点で、英国政治は左右ともに「終末論的」な主張が主流化し、既存政党の基盤が脆弱化する中、最も組織化された勢力が影響力を持つ時代が到来しつつあると記事は警鐘を鳴らしています。

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  • カナダのEavor社が、石油・ガス業界で培われた掘削技術を活用したクローズドループ型地熱システムをドイツ・バイエルン州ゲレツリートで稼働させました。従来の地熱発電と異なり地下を破砕せず、水平坑井を地下で接続して熱を回収するこの技術は、世界初の実証施設として小さな集落への熱と電力供給に成功している。注目すべきは急速なコスト改善で、6本の水平坑井のうち4〜5本目は1〜2本目と比べ50%のコスト減、掘削速度も3倍に向上した点です。石油業界で36年の経験を持つCEOは、新技術ではなく既存掘削技術の「軌道と応用」を変えただけと強調しており、日本の石油・ガス企業が持つ技術・人材の地熱分野への移行可能性を示唆しています。また同社が電力より先に「熱」市場で競争力を確立した点は、日本でも地域熱供給や産業用熱需要への地熱活用が発電より早く経済性を達成できる可能性を示しています。

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  • 固体電池を開発する米Factorial Energyが、SPAC合併により2026年中頃に上場すると発表しました。評価額11億ドル、当初1億ドルを調達し量産化を推進するとのこと。同社の電池は可燃性電解質を使用せず大幅に軽量化されており、2027年にも車載実用化を目指す。今年メルセデス・ベンツの試験車で約1,200km走行を達成し、量産車での固体電池実証は中国以外で初とみられます。ステランティス、現代・起亜とも提携中。CEOのSiyu Huang氏は米国でのEV販売鈍化について「既存電池の航続距離・重量・効率の限界」が原因と分析し、次世代電池の実用化がEV普及再加速の鍵と指摘。先行上場したQuantumScape等が量産で苦戦し株価低迷する中、実証成果を武器にしたFactorialの戦略は気候テック企業の資金調達モデルを占う試金石となります。トヨタなど日本勢との商用化競争も2027年前後に山場を迎えます。

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  • 中国が空飛ぶタクシー、ドローン配達、バッテリー交換ロボットなど次世代クリーン技術の実用化で世界をリードしています。北京在住の米国人記者が安徽省合肥市を取材したところ、EVは3月以降新車販売の半数超を占め、公共充電ステーションは1860万基に達しているそうです。武漢など12都市以上で自動運転タクシーが運行し、ドローンによる病院への緊急物資配送やロボットトラックによるラストマイル配達も普及しつつあります。注目すべきはEV普及の鍵が車両価格よりインフラ密度にある点です。日本の充電器約3万基との圧倒的な差が普及率の差に直結しているようです。また合肥市のように大都市全体を実証フィールド化し、技術完成度より社会実装スピードを優先する中国式アプローチの功罪も見極める必要があると指摘されています。

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  • 気候変動、脱炭素、気候テック関連のリサーチ等にも力を入れています。海外の業界動向調査やコンサルティング等、お仕事のご相談・ご依頼がありましたら、どうぞお気軽にご連絡下さい。

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