Vol.211:「AI電力→石炭」と「ホルムズ→再エネ」——脱炭素の方向を決める二つの力学

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【⭐📰 今週のニュース・トピックス】
🌏 イラン戦争がアジア・欧州のエネルギー転換を加速——「アジアにおけるウクライナの瞬間」 [Bloomberg Green]
🌡 「脱炭素は倍速で」——UNFCCC事務局長スティル氏、ホルムズ危機を「転換の好機」と訴え [日本経済新聞]
🏭 トランプ政権、AI電力需要を口実に石炭インフラへ7億ドルの公的資金投入 [Latitude Media]
🇺🇸 民主党州が気候政策を後退させ、共和党州が再エネを拡大——米国の逆転現象 [The Guardian]
☁ 中国のCO2排出量が2026年第1四半期に2%増——再エネ「棄て電」が急増 [Carbon Brief]
⚡ 米下院、地熱エネルギー促進の超党派法案を可決——許認可改革で開発加速へ [Heatmap News]
🔋 経産省「蓄電池・電源産業戦略」を改訂——2035年に日本企業の売上3倍・約5兆円へ [NHK・経済産業省]
核融合Helionが評価額3倍・4.65億ドル調達——重要鉱物・AIサイト探索にも投資集中 [Heatmap News]
🌿 炭素除去の現実——世界の能力と必要量の乖離が拡大、報告書が警鐘 [Heatmap News]
🌡 W杯の熱中症リスク——「暑さ指数(WBGT)」が示す気候変動の新たな脅威 [Financial Times]
【1】 🌏 イラン戦争がアジア・欧州のエネルギー転換を加速——「アジアにおけるウクライナの瞬間」 [6/4 Bloomberg Green]
ホルムズ海峡の事実上の封鎖が、欧州とアジアのエネルギー転換を歴史的な規模で加速させています。フィリピンでは政府の低利ローン制度を活用した家庭用太陽光・蓄電池の普及が急進し、欧州ではフランスがヒートポンプ・EVへの補助金倍増を発表。韓国・インドネシア・ベトナムも再エネ転換を安全保障の文脈で語り始めています。1970年代の石油危機と同様、今回の危機も化石燃料依存からの構造的脱却を促す歴史的転換点となる可能性があります。中国の電動化サプライチェーンが各国の転換を支える構図も鮮明で、「エネルギー安全保障が地政学的緊張を乗り越える局面」との分析も出ています。
💡インサイト▶ 1970年代の石油危機が欧米の原子力・省エネ政策を固定化したように、今回のホルムズ危機は「再エネ・電動化への転換」を不可逆的な政策の基軸に変えつつあります。日本企業はこの転換を「一時的な危機対応」ではなく「新しい常態」として中期経営計画に織り込む必要がありそうです。/中国製の太陽光・EV・蓄電池が「エネルギー安全保障の手段」として東南アジアに急浸透している構図は、インド・東南アジアを主要市場とする日本企業にとって中国との競争が安全保障の文脈でより複雑化することを示しており、技術・ファイナンス・政策連携を組み合わせた差別化戦略が急務となっています。
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【2】 🌡 「脱炭素は倍速で」——UNFCCC事務局長スティル氏、ホルムズ危機を「転換の好機」と訴え [6/6 日本経済新聞]
来日したUNFCCC事務局長サイモン・スティル氏は、パリ協定採択後に気温上昇の予測が最大5度から2.5度程度へ半減したことを成果として評価しつつ、1.5℃目標達成には「現状の2倍のペースで排出削減が必要」と訴えました。ホルムズ封鎖による化石燃料回帰については「一時しのぎにすぎず、再エネ増強こそが安全保障と気候危機回避の両方に効く」と明言。スペインを好例として、「一貫した政策が産業を正しい方向へ誘導できる」と指摘します。日本についても、化石燃料補助金に「数十億ドルを費やす」現状を問題視し、技術力を活かした転換の加速に期待を示しました。
💡インサイト▶ 「削減ペースを2倍に」という要求は、日本企業のGHG削減計画が現状のペースでは国際基準から乖離しつつあることを示しており、2030年中間目標の前倒し引き上げと実行計画の具体化が経営課題として浮上しています。/スペインの「一貫した再エネ政策→EU最低水準の電力価格」という事例は、政策の安定性が産業競争力に直結することを示しており、日本の電力調達コスト問題を政策リスクとして評価し直す必要がありそうです。
【3】 🏭 トランプ政権、AI電力需要を口実に石炭インフラへ7億ドルの公的資金投入 [6/4 Latitude Media]
トランプ政権は7億ドル超の連邦資金を石炭電力インフラに投じると発表しました。うち3億5,000万ドルはCCS(炭素回収・貯留)用として議会が承認したインフラ法の資金を転用したもので、2013年以来初となる新規石炭発電所2基(アラスカ1.25GW・ウェストバージニア1.6GW)の建設支援と、メリーランド州の廃止済み石炭炉の再稼働などに充当されます。いずれもAIデータセンターへの電力供給を名目としていますが、送電線から70マイル離れた立地や許可取得の遅れなど開発リスクが山積しています。専門家は「電気代高騰の主因は老朽インフラであり、石炭復活はAI需要への解決策にならない」と批判しています。
💡インサイト▶ CCS用資金を石炭建設に転用するという議会承認の逸脱は、民主党政権交代時の資金回収リスクを内包しており、米国でのエネルギーインフラ事業に関わる日本企業は政策耐久性を従来以上に精査する必要があります。/「AI電力需要→石炭復活」という米国の構図は、「AI電力需要→再エネ・原子力加速」という方向性とは真逆であり、日本企業が米国市場でのエネルギー事業戦略を立案する際に連邦・州・企業レベルの政策の乖離を織り込むことが不可欠といえそうです。
【4】 🇺🇸 民主党州が気候政策を後退させ、共和党州が再エネを拡大——米国の逆転現象 [6/4 The Guardian]
「気候先進州」を自認してきたカリフォルニア州とニューヨーク州が、エネルギー価格高騰を理由に相次いで気候政策を後退させています。カリフォルニアはキャップアンドインベスト制度で汚染企業への30億ドル超の排出枠を無償付与し、ニューヨークは2030年温室効果ガス40%削減義務を撤廃しました。一方、テキサス・インディアナ・ケンタッキーなど共和党州が再エネ導入量の上位を独占しており、テキサスは3月に太陽光でカリフォルニアを逆転しました。エネルギーインフラ全般の建設規制が緩い共和党州が、皮肉にも再エネ拡大を牽引する構図が鮮明になっています。
💡インサイト▶ 米国の再エネ投資・事業展開先の評価において「民主党州=気候政策安定」「共和党州=不安定」という従来の前提が崩れており、インフラ許認可の速度と規制の安定性という実務的な観点から州を再評価することが日本企業の対米投資戦略に求められています。/カリフォルニアの排出枠無償付与拡大は炭素価格の実効性を低下させるため、同州のカーボンクレジット・LCFS(低炭素燃料基準)クレジット市場に参加・投資している日本企業は市場価格と政策耐久性のリスクを改めて精査する必要がありそうです。
【5】 ☁ 中国のCO2排出量が2026年第1四半期に2%増——再エネ「棄て電」が急増 [6/4 Carbon Brief]
Carbon Briefの分析によれば、中国の2026年第1四半期のCO2排出量は前年同期比2%増となりました。太陽光・風力の設備容量はそれぞれ33%・23%増と記録的に拡大したにもかかわらず、系統の非効率な管理により再エネの出力制御(発電できるにもかかわらず系統に流せず捨てられる電力)が急増。これを補う形で石炭・ガス発電が増加し、電力部門のCO2は4%増となっています。出力制御が発生する主因は送電網インフラの不足ではなく、長期固定契約による石炭火力の運用の硬直性と、地域をまたぐ電力融通の制度的な制約です。ホルムズ危機による化石燃料価格高騰は再エネ移行を加速させる一方、出力制御問題が解消されなければその効果は限定的となります。
💡インサイト▶ 中国の再エネ拡大が系統管理の制度的硬直性によって阻害されている構図は、「設備投資」だけでは脱炭素が進まないことを示しており、日本においても系統運用の柔軟化・蓄電池インセンティブの整備が再エネ投資対効果の鍵となっています。/出力制御の解消が中国のエネルギー転換の最重要課題となっており、系統最適化・蓄電・地域間電力融通の技術を持つ日本の電機・エネルギー企業にとって中国市場での技術提供・協業の余地が改めて浮上しています。
【6】 ⚡ 米下院、地熱エネルギー促進の超党派法案を可決——許認可改革で開発加速へ [6/3 Heatmap News]
米下院は地熱エネルギーの普及を促進する法案パッケージを超党派の賛成で可決しました。許認可手続きと土地売買ルールを抜本的に見直し、開発タイムラインを大幅に短縮する内容です。進歩派のオカシオ・コルテス議員も共和党議員との協力を評価し、「極度の政治的分極化の時代でも超党派の成果が可能」と述べました。同週にはスリーマイル島原子力発電所のFERC送電権承認が進み2027年再稼働に向けた道筋が整ったほか、GoogleがVPPプロバイダーのVoltusと最大100MWの電力供給契約を締結。データセンター電力需要の急増を背景に、地熱・原子力・分散型エネルギーの整備が一段と加速しています。
💡インサイト▶ 地熱の許認可改革・原発再稼働・VPPの三つが同週に同時進行するという米国のエネルギー政策の動きは、「データセンター電力需要が多様な電源技術の政治的障壁を一気に下げる」という新しいダイナミクスを示しており、日本でも同様の政策加速が起きる可能性があります。/GoogleがVPPを通じた分散型リソースの調達に本格参入した事実は、大口需要家がベースロード電源確保だけでなく需要側の柔軟制御にも投資を広げていることを示しており、日本のスマートメーター・蓄電池・エネルギーマネジメント企業にとって大手テック企業との連携機会が拡大しています。
【7】 🔋 経産省「蓄電池・電源産業戦略」を改訂——2035年に日本企業の売上3倍・約5兆円へ [6/2 NHK・経済産業省]
経済産業省は「蓄電池産業戦略」を「蓄電池・電源産業戦略」に改訂し、日本企業の蓄電池関連売上高を2035年に現状比3倍の約5兆円に引き上げる目標を発表しました。AIデータセンター・医療・防災など新たな需要領域を成長機会と位置づけ、電源システム全体での製造基盤確立と高付加価値市場の獲得を目指します。国内製造基盤は2030年代半ばに150GWh/年の確立を目標とし、全固体電池は2030年頃の本格実用化を計画しています。背景には中国主導の過剰供給構造への対応と、欧米の政策変更を踏まえた戦略の刷新があります。従来の「容量」重視から「出力」を含む多角的な競争軸への転換も明記されています。
💡インサイト▶ 経産省が「容量」重視から「出力(パワー密度)」を含む多角的な競争軸へ戦略を転換したことは、データセンター・医療・防災向けの高出力・高品質蓄電池という日本の技術的強みが国家戦略と整合しはじめたことを示しており、素材・部品・システムメーカーにとって官民連携による事業拡大の好機です。/中国主導の過剰供給構造への対応として「高付加価値市場の獲得」を明示した戦略の転換は、コスト競争から技術・信頼性・サプライチェーン安全保障を訴求軸とする差別化戦略が日本の蓄電池産業の生存戦略になりつつあることを示しています。
エナシフTVさんの解説、とても分かりやすいです。以下ご共有です:)
【8】 核融合Helionが評価額3倍・4.65億ドル調達——重要鉱物・AIサイト探索にも投資集中 [6/6 Heatmap News]
核融合スタートアップのHelionがシリーズGで4億6,500万ドル(約744億円)を調達し、評価額は155億ドルと前回比約3倍に急騰しました。2027年のMicrosoftへの商業電力供給という業界最速のタイムラインを掲げており、今年初めに試作炉「Polaris」で民間初の重水素・三重水素燃料による1億5,000万度のプラズマ達成という節目を経ています。一方、元Meta CTOが設立したGigascale Capitalが2億5,000万ドルのファンドを組成し、銅精錬の国内回帰を目指すRed Metalsへの投資を発表。AIを用いた地下資源探索のTerra AIも2,000万ドルを調達し、重要鉱物・地熱・炭素貯留の探索効率化を目指しています。
💡インサイト▶ Helionの評価額が1年で3倍に達した事実はデータセンターの安定電源需要が核融合への民間投資を加速させていることを示しており、日本の重工・電機企業にとって核融合の部品・素材・製造受託への参入機会を改めて検討する局面です。/銅精錬の国内回帰(Red Metals)やAIによる鉱物探索(Terra AI)への投資が相次ぐ背景には重要鉱物の地政学リスクがあり、銅・レアメタルを大量消費する日本の製造業・商社はサプライチェーンの安定化戦略を加速する必要がありそうです。
【9】 🌿 炭素除去の現実——世界の能力と必要量の乖離が拡大、報告書が警鐘 [6/2 Heatmap News]
「炭素除去の現状(State of Carbon Dioxide Removal)2026」報告書によれば、大気中のCO2を意図的に除去する現在の世界規模は年間約22億トンと年間排出量の約5%にとどまり、かつ必要な規模との乖離が拡大しています。そのうち直接空気回収(DAC)やバイオ炭などの「新興手法」は年間200万トンにすぎず、1.5℃目標達成に必要な2030年7,000万トン・2035年3億6,000万トンには大幅に届きません。資金・購買が極端に一部に集中しており、Microsoftが炭素除去購買の80%超を占めていましたが、同社が4月に調達を一時停止したことで市場に大きな不確実性が生じています。米国の政策支援縮小も重なり、業界の構造的脆弱性が浮き彫りになっています。
💡インサイト▶ 炭素除去購買の80%超をMicrosoft1社が占めていたという極端な集中構造が崩れた事実は、カーボンクレジット・CDR市場への参入を検討する日本企業にとって「需要の裏付けのない供給投資」のリスクを示しており、購買約束(オフテイク契約)の確保を先行させる戦略が不可欠です。/米国の政策支援縮小にもかかわらず炭素除去への研究・実証投資は増加傾向にある点は、日本の素材・化学・重工企業が持つ地下貯留・バイオ炭・風化促進などの技術が中長期的な事業機会となり得ることを示しており、今から技術ポジションを確立する価値がありそうです。
【10】 🌡 W杯の熱中症リスク——「暑さ指数(WBGT)」が示す気候変動の新たな脅威 [6/5 Financial Times]
2026年W杯の開催地である米国の主要都市で、気候変動による熱ストレスが深刻な問題となっています。医療専門家が危険水準とする「暑さ指数(WBGT=湿球黒球温度)」28℃について、ヒューストンは過去10年の6〜7月の4分の3の日数で超過。少なくとも1試合でWBGTが危険水準の30℃に達する確率は4分の1とされ、エアコンのないスタジアムで行われる試合が9試合あります。WBGTは気温だけでなく湿度・日射・風を組み合わせた指標で、地球温暖化1℃につき大気中の水蒸気量が7%増加するため、湿熱環境の危険性は加速度的に高まっています。過去30年でWBGT32℃超の事例は3倍以上に増加しました。
💡インサイト▶ WBGTという複合指標が大規模イベント・屋外労働・物流の安全管理基準として国際的に定着しつつあり、製造業・建設・物流企業は単純な気温管理から湿球温度を組み合わせた熱ストレス管理へと労働安全基準を更新する必要があります。/W杯という世界最大の屋外イベントが熱ストレスの「可視化された実証例」となることで、スタジアム冷却・ウェアラブル体温管理・熱中症予防技術への需要が今後急拡大する見通しであり、日本の空調・素材・ヘルスケア企業にとって国際展開の新たな市場機会となります。
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