Vol.209: 「脱炭素」が「中国依存」に転換する——ホルムズ危機が暴いたアジアのジレンマ

今週は国連総会での141対8という圧倒的多数による気候決議採択という歴史的な動きがある一方で、ホルムズ危機を機に中国の再エネ・EV輸出が急拡大し、「化石燃料依存」から「中国製品依存」への構造的転換が鮮明になってきた週でした。参考にしていただけたら幸いです🙂
市川裕康 2026.05.23
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⭐📰 今週のニュース・トピックス】

  • 🌐 国連総会、気候変動対策を支持する決議を141対8で採択——米国は反対票 [AP]

  • ☀ BNEF「新エネルギー展望2026」:太陽光が2032年に世界最大の電源へ、エネルギー安全保障の切り札に [Bloomberg NEF]

  • 🌡 トランプ大統領のIPCC・RCP8.5に関する主張をファクトチェック——新シナリオが示す「2.5〜3℃」の現実 [Carbon Brief]

  • 🚗 IEA予測:2026年のEV・PHV世界販売シェアが30%に——中東危機と電池コスト低下が追い風 [Financial Times]

  • 🇨🇳 ホルムズ封鎖が生んだ中国再エネ特需——太陽光・EV輸出が3〜4月に6割増 [日本経済新聞]

  • 🇯🇵 ホルムズ封鎖で露わになった日本のエネルギー脆弱性——安全保障・気候・原子力の三重リスク [朝日新聞]

  • 🏭 メタが米国南部の農村にAIデータセンターを建設——5GWの電力需要と地域変容の現実 [Bloomberg]

  • 💹 世界銀行「炭素価格の現状と動向2026」:世界の温室効果ガスの3割が炭素価格の対象に、政府収入は1,000億ドル超 [World Bank]

  • 💰 気候テック資金調達:VC不振のなか公開市場・成長株ファンドが台頭 [Heatmap News]

  • 🇬🇧 英改革党副党首、気候科学を「全面否定」——再エネ投資家に撤退を警告 [Bloomberg Green]

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国連総会は2026年5月21日、気候変動対策の強化を支持する拘束力のない決議を141対8で採択しました。決議は昨年7月の国際司法裁判所勧告的意見——気候変動対策の不作為は国際法違反とする画期的な判断——を支持するもので、1.5℃目標への取り組み、化石燃料補助金の段階的廃止、被害国への「完全な賠償」を促す内容を含みます。米国・ロシア・イラン・サウジアラビアが反対票を投じました。トランプ政権は採決前にバヌアツへの取り下げ圧力をかけていましたが、奏功しませんでした。国際気候法の執行力強化に向けた動きが加速しています。

💡インサイト▶「気候不作為は国際法違反」とする国際司法裁判所意見が141カ国に支持されたことで、化石燃料依存事業への法的リスクが中長期的に高まり、日本企業のESG開示・訴訟リスク評価に新たな論点が加わっています。/拘束力はないものの化石燃料補助金廃止を明記した本決議は今後の国際交渉の基準線となり得るため、エネルギー・素材・商社各社は補助金依存ポートフォリオの長期的持続可能性を今から再点検すべきです。

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BNEFの「新エネルギー展望2026」は、コロナ禍・ウクライナ戦争・イラン戦争と相次ぐエネルギーショックが脱炭素移行の追い風になると分析します。太陽光は2032年に世界最大の発電源となり、蓄電池容量は2025〜2035年に17倍の3.8TWへ急拡大する見通しです。日本・ベトナム・インドなど輸入依存度の高いアジア諸国はGDP比3〜6%をエネルギー輸入に費やしており、再エネ・電化による安全保障上の恩恵が最も大きいとされます。2025年のエネルギー転換投資は過去最高の2.3兆ドルを記録しましたが、ネットゼロ達成には2050年までに235兆ドルが必要と試算されています。

💡インサイト▶ 再エネ調達の加速は「コスト削減」ではなく「エネルギー安全保障投資」として経営判断に位置づける段階に入っています。/データセンター電力需要が2050年に世界の1割を占める見通しのなか、長期再エネ電源確保(PPA・自家発電)は事業継続リスク管理の必須要件になっています。

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トランプ米大統領がSNSで「IPCCが高排出シナリオ『RCP8.5』の誤りを認めた」と主張しましたが、これは事実誤認です。IPCCはシナリオを開発・管理する機関ではなく、新シナリオはCMIP(世界気候研究計画)主導で策定されました。新たな7つのシナリオでは、再エネコスト低下と気候政策の進展によりRCP8.5級の高排出は「非現実的」と判断されました。一方で1.5℃目標の達成も「不可能」とされ、現在の軌道は2.5〜3℃の温暖化に向かっているとされます。楽観と悲観が混在する内容を、右派メディアが意図的に切り取った形です。

💡インサイト▶ 気候リスク評価は「高排出シナリオが非現実的になった」という事実に安堵せず、現軌道が2.5〜3℃に向かっている以上、中〜高排出シナリオを含む複線的な想定を維持することが必要です。/気候科学の政治的歪曲が米国の規制環境に直接波及するリスクが高まっており、日本企業はサプライチェーン・投資判断において米国の規制後退シナリオを明示的に織り込む必要があります。

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IEAは2026年のEV・プラグインハイブリッド(PHEV)の世界販売シェアが約30%に達すると予測しています。中東エネルギー危機による燃料価格上昇がEV需要を押し上げており、アジア太平洋では前年比50%超、中南米では45%超の販売増が見込まれます。欧州では3台に1台がEV・PHEVとなる見通しです。中国はEV世界生産の約75%を占め、輸出は2025年に過去最高を記録。東南アジアのEVシェアは2035年に60%へ拡大が予測されます。一方、イラン戦争による景気下押しリスクが全体的な新車販売を抑制する可能性もあるとIEAは警告しています。

💡インサイト▶ 中東危機を契機にEV需要が構造的に加速するなか、日本の自動車・部品メーカーはEV・PHEV比率の引き上げを「政策対応」ではなく「エネルギー安全保障対応」として経営計画に位置づけ直す局面に入っています。/東南アジアの2035年EVシェア60%予測は中国製EVとの競合激化を意味しており、同地域を主要市場とする日本メーカーは現地生産・調達戦略の前倒し見直しが急務となります。

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イランとの軍事衝突後、中国の再生可能エネルギー製品・EV輸出が急増しています。3〜4月の太陽光パネル関連輸出は前年同期比6割増の76億ドル(約1兆2,000億円)、リチウムイオン電池も3月に7割増。「国家エネルギー非常事態」を宣言したフィリピンへの輸出は前年同月比2.3倍に達しました。中国は太陽光・EV・電池を「新三様」と位置づけ重点投資を続けており、2025年のクリーンエネルギー投資は6,270億ドルと米国(4,000億ドル)を上回ります。化石燃料依存からの脱却が進む一方、中国製品への新たな依存という構造的リスクも浮上しています。

💡インサイト▶ ホルムズ危機が中国の再エネ外交を加速させるなか、日本の商社・エネルギー企業は「脱化石燃料」と「脱中国依存」を同時に実現するサプライチェーン戦略の設計を迫られています。/中国の「デフレ輸出」が再エネ・EV分野でも加速するなか、ASEAN市場での価格競争力の非対称性はさらに拡大する見通しで、日本メーカーは技術・サービス・ファイナンス面での差別化への転換が急務です。

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ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、日本のエネルギー安全保障の脆弱性が改めて浮き彫りになっています。IEAが「史上最大のエネルギー安全保障の脅威」と表現するなか、日本の2024年度のエネルギー自給率はわずか16%と先進国最低水準で、化石燃料輸入額は年間20〜30兆円に達します。朝日新聞は①安全保障リスク気候変動リスク核燃料サイクル未解決という三つのリスクを提示。高市政権が2027年度から地上設置型太陽光への支援を廃止する方針を打ち出すなか、危機を「エネルギー戦略転換の好機」とすべきと訴えています。

💡インサイト▶ 自給率16%という構造的脆弱性のなかで高市政権が地上太陽光支援を廃止する判断は政策リスクとして再評価が必要で、エネルギー安全保障を重視する企業・投資家は日本の再エネ政策の後退を織り込んだ調達戦略の見直しを迫られています。/六ケ所村再処理工場の遅延と使用済み核燃料の満杯問題は、関西電力3原発が2028〜2030年度に運転停止を余儀なくされる可能性を示唆しており、原子力依存の電力調達計画を持つ製造業・データセンター事業者は代替電源確保の検討を早める必要が出てくるかもしれません。

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メタはルイジアナ州リッチランド郡の農地に、総投資額200億ドル超・5GWのコンピューティング容量を持つ世界最大級のAIデータセンター「Hyperion」を建設しています。電力供給のために10基のガス火力発電所を新設する計画で、年間水使用量は最大10億ガロンに達する見込みです。地域には建設需要による短期的な経済効果が生まれている一方、家賃上昇・粉塵・交通事故増加・地域コミュニティへの事前説明不足など多くの摩擦も顕在化しています。創出される正規雇用は2035年時点でわずか500人と、地域が長年求めてきた雇用規模とは大きくかけ離れています。

💡インサイト▶ 5GWのデータセンターをガス火力10基で賄うメタの事例は、AI需要急増が再エネ普及と逆行する形で化石燃料需要を押し上げるリスクを示しており、日本のエネルギー・インフラ企業にとって電源供給事業の商機と環境リスクが同居する領域です。/巨大投資にもかかわらず正規雇用500人にとどまる構造は、米国では2030年までの電力需要増加の約半分をデータセンターが占める一方、日本では電力接続待ちが最大10年に達するという非対称な現実とあわせ、国内誘致を検討する企業・政策立案者が雇用・電力インフラ両面の制約を冷静に評価すべき先行事例となっています。

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世界銀行の年次報告書によれば、2026年時点で世界の温室効果ガス排出量の約29%が87の炭素価格制度(排出量取引・炭素税)の対象となっています。政府収入は2025年に1,070億ドルを超え、2016年比で3倍以上に拡大しました。平均炭素価格は2016年の10ドルから2026年に約21ドルへと倍増しており、日本・インド・ベトナムで新たなETSが導入された点も注目されます。カーボンクレジット市場では2024〜2025年の発行量が8%増加した一方、価格は小幅下落。ただし国際航空向けCORSIA適格クレジットは15〜22ドルと高値を維持しています。

💡インサイト▶ 日本のGX-ETSが世界銀行報告書で明示的に言及されたことは国際的な炭素市場での制度的認知を示しており、対EU輸出企業にとってCBAM対応の交渉材料として活用できる重要な変化です。/CORSIA適格クレジットが一般クレジットの数倍の価格水準を維持していることは、航空・物流・商社など国際輸送に関わる日本企業にとってクレジットの品質・規格選択が調達コストに直結することを示しています。

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VCによる初期段階への気候テック投資が縮小するなか、公開市場や成長株ファンドが補完的な資金源として存在感を高めています。小型地下核融合炉のDeep FissionがNasdaq上場を計画(目標評価額約17億ドル)、熱電池のAntora Energyはサウスダコタ州で5GWhの商業プラント稼働を開始しました。またS2G Investmentsは「ミッシング・ミドル」(初期VCと機関投資家の間の資金ギャップ)向けに10億ドルのファンドをクローズ。道路の制動エネルギーを電力に変えるREPS(欧州)への2,360万ドル調達など、分散型エネルギー技術への投資も続いています。

💡インサイト▶ VCが退いた「ミッシング・ミドル」は日本の商社・CVCにとって戦略的参入余地があります。/熱電池商業化を個人投資家が単独支援した事実は、「ファーストオブカインド」リスクの引き受け手が多様化していることを示しており、日本企業のプロジェクトファイナンス戦略に再考を促しています。

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英改革党副党首リチャード・タイスはBloombergのポッドキャストで、IPCCの気候科学を「一切認めない」と明言し、ネットゼロを「net stupid zero」と切り捨てました。再エネへの補助金廃止・蓄電池禁止・北海掘削推進・フラッキング解禁を掲げる一方、原子力・ガス・石油への投資を促しています。洋上風力入札(AR7以降)への投資家への警告も繰り返し、契約の法的安定性より「事前通知済み」との論理で正当化しました。ただし改革党支持者の過半数が再エネを支持しており、同党の躍進が政策共鳴よりも既存政党への不満を反映している可能性も浮き彫りになっています。

💡インサイト▶ 改革党支持者の過半数が再エネを支持しているという事実は、同党の躍進が反気候政策への共鳴よりも既存政党への不満を反映したものであり、英国の政策転換リスクは支持率が示すほど深刻ではない可能性があります。/タイス自身がテスラを所有し屋上太陽光を導入していることは、改革党の反再エネ姿勢が補助金・規制への反発に根ざしており、政権獲得時の実際の政策運用は公約より穏健になる可能性を示しています。

*[音声トラック]→[日本語]を選択すると日本語での視聴が可能になります。

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【イベント&オンライン講座のご案内】来週です🙂

  • 5月27日(水)CIC Tokyo 環境エネルギーイノベーション(E&E)コミュニティ / 企業と社会フォーラム(JFBS)共催イベントのご案内

  • 来る5月27日(水)18:00より、CIC Tokyo(虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階)にて開催される「企業と社会フォーラム(JFBS)5月研究会 / E&Eコミュニティ Green Tech Exchange」に登壇します。当日の対談セッション(18:55〜19:25)では、Climate Curationの4年間の活動を振り返りながら、海外で進む気候テック・ネットゼロ・脱炭素を巡るナラティブが日本とどう異なるか、いま注目しているトピックやニュースキュレーションを行う際の情報源や生成AI活用などについてもお話しする予定です。AIガバナンスとESGの研究者、グリーン人材の専門家も登壇するパネルディスカッションも予定されており、研究者・企業・スタートアップ・投資家など幅広い方を対象とした無料イベントです(オンライン参加も可)。ご都合のよい方はぜひご参加ください。

詳細・申込はこちら → https://eande-jfbs.peatix.com/

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